記念作品
□サイト1周年記念企画小説・第1位
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用事を済ませた2人は、本来の目的であるケーキ店へと向かう為、夕暮れの道を歩いていた。
この辺りはルナにとってあまり馴染みのない地区であるが、首都と呼ばれるロカA2では珍しく落ち着いた雰囲気を感じさせる。
というのも、この地区は通称『スポーツエリア』と住人から呼ばれ、ドームやグラウンドなどのスポーツに関わる設備が集中して建設されている。
一方で、繁華街の様に高層ビルや居宅は存在しない。
それは、野球やサッカーなどの屋外スポーツではボールが場外へ飛び出す事があり、建物を損傷する恐れがあるからだ。
ならば何故わざわざ屋外施設を作る必要があったのか?
その理由は至って単純なものであった。
この時代の人間は、誰しもが『自然』に憧れているからである。
たとえそれが『偽物』であろうとも、コロニーという閉鎖的空間の中に生きる者にとって、空を仰ぎ、大地を踏みしめる事は、自然を堪能できる数少ない喜びなのだ。
広大な敷地を有してまでこの地区が重要視されるのは、そういった心の奥に残された自然への渇望があるからであった。
広大な屋外グラウンドからやや高い位置に設施された動く歩道に乗りながら、2人は歓声が飛ぶグラウンドを見下ろした。
「見てカオル、野球の試合をやってるわ」
少年野球の練習試合だろうか。
白いユニフォームを着た自分達より年下の少年達が、泥だらけになりながらボールを追いかける姿が目に入る。
「そういえば、サヴァイヴでも少しだけやった事があったな」
「うん。私も丁度今思い出してた」
カオルの言葉に、ルナはクスクスと小さく笑った。
野球といっても、日頃のストレス発散に、という名目でハワードが考えた簡素な遊びである。
ボールとバットの代用に石と鉄パイプを使用し、投げた石を打ち、どこまで飛ばせるかを競う、というものであった。
最終的にハワードが打った石が運悪くもオオトカゲに直撃し、怒り狂ったオオトカゲに追いかけ回される羽目になったという結末も、今ではいい思い出である。
「最後は大変な目に遭ったけど、あれはあれで私は楽しかったと思うわ」
「まぁ、否定はしないがな」
当時の場面を回想し、ルナとカオルは懐かしげな表情を浮かべ笑い合った。