記念作品

□サイト1周年記念企画小説・第2位
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コロニーに帰還した7人と1匹は、日常生活を取り戻した一方で、実は小さな問題を密かに抱えて過ごしていた期間があった。

8ヶ月もの間、畑仕事に魚釣り、狩りに食糧調達、料理に道具作りと、今とは随分かけ離れた原始的な生活をしてきたせいか、久しぶりの近代的生活との間に生じた時差ボケの様な違和感を感じてしまっていたのだ。

ただ、それも一時的なものであり、時間の経過と共に自然と解消されていった。

サヴァイヴから奇跡の生還を果たしてから数週間が経ち、再び始まった学園生活にようやく馴染み始めてきていたある日の朝、シャアラは偶然ゲート前で会ったルナと挨拶を交わし、いつもの様に共に教室へ向かった。

その道中の事。



「あ、ルナ!おはよー!」

「うん、おはよう」



「ルナー!昨日は手伝ってくれてありがとー!助かったわー!」

「また何か力になれることがあったら、遠慮なく言ってね?」



「あ、ルナ!今日の放課後このメンバーでカラオケ行こうって話してたんだけど、ルナもどうだ?」

「うーん……せっかくなんだけど、今日バイトだから難しいかな。ゴメンね?」



シャアラは改めてルナの社交性の高さに、驚きと感心の目を向けた。

生徒一人一人が、すれ違うルナへ言葉をかけていく。

自分はようやく時差ボケから回復したばかりだというのに、ルナはもうすっかり順応していた。

それに、ただ顔が広いというだけではない。

シャアラを含む仲間達が彼女を慕うように、彼女の持つ人格が自然と人を惹きつけているのだろう。

メノリのものとは異なる、天性のリーダーシップ力を持っているのだ。


「ルナってやっぱりすごいわ」

ポツリと漏らしたシャアラの言葉に、ルナは目を丸くした。

「どうしたの?突然」

「ううん。何となくそう思っただけ」

不思議そうに首を傾げるルナの姿が何だか可笑しく、シャアラはクスッと小さく笑った。

ルナは釈然としないながらも、まぁいっか、と心の中で自己完結をし、「さ、早く教室に行きましょ」とシャアラの手を引いて歩みを速めた。




そんな彼女たちの背中を物陰から眺める数名の集団。

かつてのハワードの取り巻き達であった。

その視線は先程の生徒達とは対極に、敵意に満ちていた。

「……気に入らないわね」

「人気取りなんかしちゃって、ちょっと調子のりすぎじゃない?」

「ハワードとも仲良くしやがって……!お陰で俺達のポジションが危なくなってるじゃねーか!」

「これは少し、自分の立場ってやつを教えてやる必要があるな」

不穏な言葉と不敵な笑みを交わしあい、取り巻き達は再び遠ざかるルナの背中へ視線を向けた。







サイト1周年記念企画・第2位

『Dark knight』








その日の放課後、授業を終えたルナは、バイトへ向かうため、急いで道具をカバンへ詰めていた。

「あれ……?」

不意に出た言葉と共に、ルナの手が突然止まる。

そして何かを探すかの様に、机の近辺をキョロキョロと見回し始めた。

「どうした?」

ルナの行動に首を傾げ、帰り支度を既に済ませたカオルが声をかける。

「あ、うん……ノートが見当たらなくて……」

「最後の授業の時にはあったのか?」

「うん。先生がテストに出るって言ってた所、メモしてたから」

ルナの返答を聞き、カオルは少し考えると、教室内を物色し始めた。

「あの、カオル……?何を……」

「探すの手伝ってやる」

「え!?でも……」

「早くしないとバイトに遅れるぞ」

遠慮しようとするルナの心理を先読みし、カオルは敢えてルナを押し黙らせる言葉をぶつけた。

行き場を失った言葉の代わりに「う……」と詰まらせた声を漏らし、観念した様子で苦笑いを浮かべると「ありがとう」と礼を述べ、共に捜索を始めた。


しかし結局見つける事が出来ず、タイムリミットとなってしまった。

「どうしよう……色んなテスト対策のデータが入ってたのに……」

落胆するルナの肩へ、励ます様にカオルの手がぽんと置かれる。

「後で要点をまとめたデータをメールで送ってやるから、そんなに気を落とすな」

「でも……」

「別に出来てるものを添付して転送するだけだから手間もない」

遠慮から少し悩むも、失ったデータ情報の膨大さに、背に腹はかえられぬ、と思い至り、カオルの提案を受け入れた。

「……何から何までゴメンね?」

世話になりっぱなしで申し訳がたたない、とルナは深い溜息をつく。

「気にするな。それより早く行け。遅刻するぞ」

「うん……。ありがとうカオル」

手伝ってくれたカオルへ礼を述べると、ルナは駆け足で教室を出て行った。



「………」

誰もいない教室に一人、カオルは深刻そうな表情を浮かべ佇んでいた。


本当はカオルは見つけていた。

しかし、それをルナに告げようとはしなかった。

いや、告げられなかった言った方が正しいのかもしれない。


ルナの電子ノートを見つけたのは、ゴミ箱の中だった。

しかも、ディスプレイは割られ、もはや再起不能な状態となっていた。

この時カオルは直感した。

何かしらの悪意が、ルナを狙っている、と。


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