記念作品
□サイト1周年記念企画小説・第2位
2ページ/7ページ
それからというもの、ルナに対する『見えざる者の悪意』は、日に日にエスカレートしていった。
物が失くなったり、脅迫めいたメールが送られてきたり、酷い時はトイレの個室で上から水をかけられたりもした。
ルナも勘付いてはいた。
自分に対して誰かが悪意を持って接触してきている事に。
しかし、それをクラスメイトや教師、仲間にさえ話そうとはせず、変わらぬ笑顔で対応し続けた。
小学校の頃、ルナは孤児であるという事でイジメを受けた経験がある。
当時のルナはそれに対抗する事も出来ず、ただただ泣くだけであった。
そんな彼女をかばってくれた子もいた。
しかしそれが原因で、その子にまでイジメの火の粉が降りかかってしまった。
結局その子は、絶え間なく受けるイジメに耐えかねて、転校する事となった。
だからこそルナは分かっていた。
こういった『悪意』は、擁護する人にも牙をむけ、その人の心を蝕(むしば)んでいく。
仲間に話せば、もしかしたら力になってくれるかもしれない。
しかし、自分のせいで彼らにまでその『悪意』が向けられるのは、ルナには耐えかねる事であった。
──自分が耐え忍んでさえいれば、被害は最小限で済む。
大丈夫、ただ泣いているばかりだったあの頃とは違う。
自分にそう言い聞かせ、ルナは平然を装い続けるのであった。
一方のカオルは、あの日からルナに対する悪意の正体を探っていた。
学園内でルナに敵意を持つ者の大方の予想はついていた。
しかし、あくまでも予想に過ぎず、根拠となるものはない。
相手は周囲に気づかれぬようルナに陰湿な攻撃を繰り返しているのだ。
下手をすればルナの立場を余計に悪くしかねない。
何よりルナ自身、この件について周りには一切相談していない。
その理由も、ルナの性格から予想できる。
(自分の問題に他人を巻き込めないだとか、そういったところだろうな……)
理解はしているものの、納得はしていなかった。
ルナはまた一人で背負おうとしているのだ。
これでは規模は違っても、重力嵐を消滅させた時の二の舞である。
そうはさせまい、と確固たる決意を胸に、カオルは一人暗躍するのであった。