記念作品
□サイト1周年記念企画小説・第3位
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人の往来が減った放課後の廊下を、カオルとメノリは肩を並べて歩いていた。
「わざわざすまなかったカオル。だがお陰で早く終わった」
「通りかかったついでだ。気にするな」
学園内の倉庫の整理を手伝って欲しい、という教師からの依頼を受けたメノリは、倉庫へ入ろうとした所で偶然カオルと遭遇した。
事情を聞いたカオルは、自ら率先して倉庫内の整理を始めたのである。
始めは「生徒会の仕事だから手を出すな」と言おうとも考えたが、本日の生徒会は諸事情で休みである為、カオルの無言の申し出をメノリは甘んじて受ける事にした。
その甲斐あって、予想よりも大幅に仕事を終了する事が出来た。
「今更だが、他の生徒会の連中はどうした?」
「みんな私的な用事があるようでな」
「だからといって、生徒会長ともあろう人間が雑用なんかをやってていいのか?」
「リーダーとは、ただ上から指示だけをしてればいいというものではないだろう?」
カオルの皮肉に、メノリはさらりと答えた。
それは漂流時に彼女が学んだ事なのだろう。
昔とはまるで違うメノリの返答を聞き、カオルはくつくつと笑った。
「何が可笑しい?」
笑われた事を不愉快に感じたのか、メノリが眉をわずかに上げて問いただす。
「いや、あいつの与える影響は凄まじいな、と想ってな」
「ふっ、同感だ」
カオルの言葉を聞き、メノリも自然と顔を緩ませる。
2人の脳裏に浮かぶのは、いつでも笑顔で皆を引っ張ってくれていたオレンジ髪の少女であった。
サイト1周年記念企画・第3位
『噂の2人』
「今回の試験の手応えはどうだ?」
「別に、いつもどおりだ」
「……その『いつもどおり』が満点だったりする訳だから、こっちはたまったものではない」
他愛の無い会話をしながら、カオルとメノリは学園のエントランスを出た。
ゲートまでの直線の道を並んで歩く2人に、帰路に就く生徒達が注目する。
厳格ではあるが、どこか気品を感じさせる美少女のメノリ。
寡黙であるが、どこか色気を感じさせる美少年のカオル。
学園内では『高嶺の花』と勝手に位置づけられている2人が談笑をしながら帰る様は、周囲の生徒達から見るとまるで恋人同士であるかの様に感じられた。
この光景を目の当たりにした生徒達の間で、2人の関係性に対する疑惑の噂は瞬く間に広がっていった。
噂とは恐ろしいもので、広まる範囲が大きくなっていくにつれて、事実から少しずつずれてしまう様である。
数日後には、学園全体に1つの噂が広まっていた。
「カオルとメノリは付き合っているらしい」と……