記念作品
□サイト1周年記念企画小説・第3位
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その日、カオルは違和感を感じていた。
というのも、その原因はルナにあった。
向けてくる笑顔がぎこちなく、声を掛けても「ごめん!用事があるから!」と言ってそそくさと退散してしまう。
本人はきっと平静を保っているつもりなのだろうが、露骨すぎである。
(明らかに避けられているな……)
何かルナに対して非道い仕打ちをしたか?と自分の胸に手を当ててみるも、思い当たる節がまるで見当たらない。
もしかしたら無意識に怒らせる事をしたのかもしれない、とカオルは考え至り、原因を探ろうと放課後ルナがバイトへ向かおうとした所を捕まえ声を掛けた。
「これからバイトだろ?帰り道一緒に良いか?」
「え!?で、でも……」
やはりおかしい、とカオルは確信した。
いつもなら二つ返事で「うん!」と言うルナが躊躇している。
「嫌ならいいんだが」
「え!?あ……ううん!い、嫌じゃないよ!?」
カオルの言葉を受け、ルナがはっとしたように首を横に振った。
「だけど……その……」
「何だ?」
「……ううん、何でもないわ。行きましょ」
何かを言いたげな様であったが、ルナは小さく首を横に振り、歩き出した。
一方の生徒会室。
一通りの業務を終え、メノリは溜まった疲労を取り除こうと伸びをした。
「お疲れ様です、会長」
生徒会の副会長が労りの言葉と共に、メノリの前にお茶を差し出した。
メノリは「ありがとう」と礼を言って早速お茶に口を付けた。
「そういえば」と副会長が突然話題を振る。
「さっき窓から見えたんですけど……カオルさん、ルナさんと一緒に帰っちゃいましたよ?」
「……?それがどうした?」
「どうしたって……会長を置いて他の女子と帰るってちょっとあんまりじゃありませんか?」
副会長は何故か不快そうにメノリへ告げる。
「……言っている意味が全く分からないんだが……」
本当に理解できていない様で、メノリは小首を傾げながら、再び湯呑みに口を付けた。
「だって会長、カオルさんと付き合っているんでしょう?」
「ぶっ!?」
副会長の爆弾発言に、メノリは思わずお茶を吹き出してしまった。
「会長……汚いです」
「げほっ!お、お前が変な事を言うからだ!何故そういう事になっている!?」
「え?違うんですか?」
キョトンとして首を傾げる副会長に、メノリは「違う!!」と声を荒げて否定した。
「なぁんだぁ、所詮は噂に過ぎなかったのかぁ〜」
「……噂?」
その意味深な言葉にメノリが過敏に反応する。
「結構広まってますよ?会長とカオルさんが付き合ってるって噂」
「……最悪だ」
メノリは急激な疲労を感じ、本日一番の深い溜息をついた。
「えー?何でですか?カオルさんカッコいいし、勉強も運動も出来るし、文句無しじゃないですか」
「バカを言うな。そんな事は問題ではない」
噂で広まっているという事は、恐らく仲間達にも伝わっている可能性が高い、という事だ。
(ルナの様子が近頃おかしいのはそういう事か……)
ルナの想い人の存在を知っているだけに、この噂は彼女にとって精神的ダメージは相当なものであろう。
メノリはこの問題をどう処理すべきか、再び深い溜息をつくのだった。