記念作品
□50000hitキリリク小説
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意識が浮上し、ルナはゆっくりと瞼(まぶた)を開いた。
「ここは……どこ?」
見覚えのない空間に戸惑いの色を隠せない。
ルナはふと自分の衣服へと目を向けた。
「あれ?服が変わってる……。あ、そっか!私は今この童話のキャラクターなんだった!」
そこでようやく状況を思い出し、ホッと小さく安堵の息を吐いた。
「それにしてもよく出来てるなぁ……。こうやって動いたり話したりしてるけど、生身の方はヘッドギアを付けてジッとしてるのよね?何だかどっちが現実かよく分からなくなりそうだわ」
キョロキョロと辺りを見回しながら、ルナは部屋の出口となる扉を開いた。
「………」
目の前に広がる光景に、しばし硬直する。
そして、息を呑み、感動の声を思わず洩らした。
「すごい……!これがコンピュータプログラムの世界だなんて、とても思えない……!」
素朴さと共に活気に満ちあふれた町並み。
見た事のない装いをした町人。
昔本で読んだ事のある、露店商や大道芸人、弓矢を持って森へ向かう狩人。
自分が今立っているその場所は、間違いなくおとぎの国であった。
空想の世界として認識していた所へ、自分が存在している事が何とも奇妙である。
しかし同時に、この不思議な体験に胸を躍らせている事に気付く。
シャアラやシンゴがはしゃいでいた理由も、今なら分かる様な気がした。
ゲームを起動させる前に、ハワードから受けた一通りの説明をルナは思い出す。
今回のこのプログラムは、あくまで試作段階に過ぎない為、プレイヤーには大幅の制限が設けられている、という。
設定以上の行動は不可、つまりは決められた筋書き通りに行動しないと話が進まない、という事である。
そして、このプログラムには、もう一つ大きな特徴がある。
例えストーリーが分からなくても、不思議と脳に直接、これからの行動やセリフが流れ込んでくる。
行き詰まって先へ進めなくなってしまう事を防ぐシステムが作動するのだ。
シンゴは「脳に電波シグナルを送っているから」といまいち理解に苦しむ説明を熱く語ってくれたが、ルナは『お助け機能』と簡略的に認識する事にした。
ハワードの説明では、頭の中で『HELP』をイメージすれば、このシステムが作動するとの事である。
日々進化していく科学技術には驚かされてばかりだ、とルナは感心し、脳内で救援を要請した。
すると、説明通り今後の取るべき行動が脳に流れてきた。
まるでナノマシンによって発動されたテレパシーみたいだ、とかつての思い出を振り返りながら、筋通りに行動を始めるのであった。