記念作品
□60000hitキリリク小説
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「でも、何でまた合気道なんか学ぼうと思ったわけ?」
「変……かな?」
「ううん、そうじゃないんだけど、ルナも武術に興味があったなんて意外だなぁって思って」
「興味があるってほどじゃないけど、やっぱり、自分の身くらい守れる技能は身に付けたいなって思ってね」
「いつも、ルナちゃんを守ってくれてた騎士(ナイト)様は、もうじき養成学校へ編入しちゃうものね」
「もう、そんなんじゃないですってば!」
カトレアからの横やりに、ルナは頬を膨らませて反論した。
「あ、そっか。カオルは中等部卒業したら、ロカA2からいなくなっちゃうんだっけ」
シャオメイがその事実を知ったのは、ソリア学園に復学した日の昼休みの事であった。
以前ルナから、カオルが宇宙飛行士養成学校へ行く学費を貯める為にアルバイトをしている、とは聞いていたが、まさか、それが中等部卒業を機に、とは思ってもみなかった。
夢に向かって着実に進むカオルを尊敬する反面、目標としていた背中が遠くなってしまう事に、何とも言えない虚脱感を感じてしまった。
改めて原点回帰してみると、シャオメイがソリア学園へ来たのは、カオルを追いかけてであった。
あの異質を放つ、圧倒的な存在感。
ハワードやメノリ、シャオメイが持つ、権力者としての存在感とは全く違う、人の心を揺さぶる力を彼は持っている。
それを思い出し、シャオメイの中で眠っていた闘志に再び火が灯り始める。
「ねえ、ルナ」
「ん?」
「もう一度……カオルに勝負を申し込んだら……受けてくれると思う?」
「勝負って……格闘技としてってこと?」
ルナの問いかけにシャオメイは頷いた。
「う、う〜ん……どうかしら?正直、快諾するとは思えないけどなぁ」
「そうよねぇ……」
ルナの回答を聞き、シャオメイは深く溜息をついた。
「でも、どうしたの突然?」
「……思い出したの」
ルナの問いに対し、シャオメイは心に灯った闘志が持つ本当の意味について告白した。
「私にとってカオルは、目標だった。いつか、必ずあの背中に追いついてやるって、初めてそう思わせてくれた存在なのよ。だからせめて、アイツが離れてしまう前に確認したいの。私がどれだけ成長したのか、アイツの背中がどれだけ遠いのか……。私は不器用だから、こんな方法しか思いつかないから……」
勝敗を決するのが目的ではない、成長を測る為の決闘。
他の人からすれば、くだらない、と感じてしまうかもしれないが、シャオメイにとっては、人生観に関わる重要な事であった。
恐らくこれが、 シャオメイなりの『けじめ』の付け方なのだろう。
その真剣な思いを何となくであるが、ルナは汲み取る事が出来た。
ルナがポンとシャオメイの肩に手を置く。
「ルナ?」
顔を向けると、ルナは優しく微笑んでいた。
「だったら、その気持ちをカオルに言ってみたらいいと思うよ」
ルナの言葉に、シャオメイは目を丸くした。
「でも、言ったところでカオルが承諾するとは……」
「カオルは、真剣な気持ちを無碍(むげ)にするような真似はしないよ」
そう告げるルナの瞳は、カオルへの信頼で満ちていた。
思えば、自分よりも遥かに長く一緒の時を過ごしてきた2人である。
もはやそれは、『信頼』などという言葉では言い表せない程の、夫婦にも似た絆と同類の様にシャオメイには感じられた。