記念作品

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冷たい。


その感覚が、ルナの意識を少しずつ浮上させる。

強い眠気のせいだろうか、目蓋を上げる動作に多大な労力を要しながら、ゆっくりと朦朧状態からの脱却に成功した。

起き上がろうとして、そこで初めて気がつく。

「…………え?」

鉄の台の上に寝そべり、四肢が拘束されている自分の状況に。

大の字で体を動かせないまま、ルナは周囲を見渡した。

「…………ここは、どこ……?」


床、天井、壁、全てがむき出しとなった鉄板で囲まれた無機質な空間。

ルナが居るのはそんな場所であった。

暖かみの感じられないその室内は、体感温度もより低く、寒々と感じてしまう。

なぜ自分がこのような状況に陥っているのか……その答えを求め、ルナは今日の出来事を順を追って思い出していく。


今日は確か……そう、メノリの家へ遊びに行っていたはずだ。

女子会をやろう、というシャオメイの思い付きに乗り、シャアラを含めた女子4人で、お菓子パーティーを開いたのだ。

楽しい時間はあっという間に過ぎ、午後5時過ぎ頃には解散となった。


……………………?


どうしてだろう、それ以降の記憶が、まるで無い。

今ここにいる経緯が、全く思い出せないのだ。

しかし、この状況から推測すれば、当人を含め、誰しもが1つの結論に辿り着くであろう。

(もしかして……私、誘拐された……?)







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『M.A.D』








しかし、何故自分なのだろうか。

メノリやハワードの様な家柄であれば、身代金目的の誘拐だと理解できる。

しかし、自分は孤児であり、はっきり言ってしまえば裕福ではない。

誘拐するメリットなど全くと言っていいほど無い。

とすれば、犯人の目的は別にあるのか、はたまた、ただ単に誰かと勘違いして拐ってしまったのか……


無機質な天井を仰ぎながら脳内であれこれと推論を並べていると、不意に部屋の扉がロック解錠の機械音と共に開かれる。

室内に入ってきた人物を見て、ルナは驚いた様子で思わず言葉を漏らした。

「お、女の……人?」


意外であった。

どうやら自分は、未成年の少女を誘拐する=男、という固定観念を持っていた様だ。


「お目覚めかしら?」

女は徐(おもむろ)にルナへと近づき、妖しく微笑んだ。

年齢は20代半ばから30代前半くらい、白衣を纏(まと)っているが、医者か研究者なのだろうか?


「取り乱すかと思っていたけど、意外と冷静なのね」

「……生憎(あいにく)、もっと壮絶な経験をした免疫がありますから」

「ふふっ、そうだったわね」

ルナの返答に、女は小さく笑った。


「言っておきますけど、私を誘拐しても一文も得になりませんよ。両親はとっくに他界してますし、私自身ギリギリの生活ですから」

気丈に振る舞うルナの態度に、女は何が面白いのか、笑みを浮かべて対応してくる。

「あなたは分かってないのね?あなた自身の存在価値の高さに」

「存在価値……?」

意味が分からず首を傾げるルナに、女は小さく口元を上げ、続けた。


「……ナノマシン」

その単語に、ルナはピクッと体を震わせた。

何故それを、という様に、思わず目を見開く。

その様子を知ってか知らずか、女は演説口調で語り始めた。

「体内に注入する事で、自律プログラムによってあらゆる傷病を治癒する、まさに人類が渇望する究極のテーマ。……だけど、いまだにナノテクノロジー研究の進展は芳しくないわ。ナノサイズの機体を作り出せても、同等以下のサイズのAIでは生体の中で自律性を保てない。自律性を重視すれば、ナノサイズの機体は生み出せない。現代の技術では実現は不可能という声まで出ている」

女は小さく溜息をついた。

表情も心なしか憂いている様にも見える。

しかし、再びルナへ視線を戻すと一転、欲しいものが手に入った子供の様に無邪気な顔を見せた。

「それが、どう?現代では実現不可能と言われたナノマシンをあなたは体内に宿している。そればかりか、宿主が負った傷を治癒するプログラムをも持っている。目の前に至高の宝があるのよ?喉から手が出るほど欲しくなるのは人の性(さが)だと思わない?」

「あ、あなたは一体……何者なの?」

動揺するルナに、女はニコッと笑いかけ、答えた。

「自己紹介がまだだったわね?私はアナスタシア。医学・生物学を伴うナノテクノロジーを専門とする研究者よ。これからよろしくね?ルナちゃん」

そう自己紹介するアナスタシアの無垢な笑顔に、ルナは何か狂気の様なもの感じたのであった。


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