novel
□子守日和
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忍足の家に出向けば、一人暮らしの室内に先客がいた。
まだハイハイが出来始めたばかりの、恐らく1歳足らずの男の子。
「お前、いつの間に産んだんだよ」
「ちゃうわアホ!俺の子は自分にしか産ませへんし」
「な…っ、バカ言ってんじゃねぇ!」
相変わらずの発言をされれば、微かに跡部の頬が染まっていく。
そんな日常茶飯事のやり取りの最中、四つん這いで子供が跡部に近付いてきた。
跡部は避けることもなく、向かってくる子供をじっと眺める。
足元まで来ると抱っこ、と強請るような瞳で両手を上げられれば断ることなど出来ず、不慣れながらに跡部はその子供を抱き上げた。
「あー、あー」
「抱っこしてもろてええなぁ」
要望が叶ったことで、男の子は2人に無邪気な笑顔を交互に向けた。
純真無垢なその表情には、流石の跡部も自然と表情が緩んでいく。
(うっわ、跡部今めっちゃ優しい顔しとるし…)
それには、いくら相手が幼い子供とはいえ妬いてしまうのが忍足だ。
「おい、こいつの名前は?」
「ん?ああ、葵や。親戚がこっちに出て来て、夕方まで預かって欲しいって頼まれてん」
服を握る小さな手、甘えるような仕草、大人より高めの体温、葵のそれらに魅せられていく。
来たばかりだと言うのに、跡部は踵を返し玄関に足を進めた。
慌てて忍足も後を追い掛ける。