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重ね合わせた双方の唇は温かかった。
そう、以前は確かに温かかった。
「……冷てぇ…」
一体、どれだけの時間をこの場所で過ごしているのだろう。
寒さで指先が悴み、まるで全身が棒になったような感覚さえする。
あれは、本当に一瞬の出来事───…
車の急ブレーキの音が周りに響いた。
それと同時に、人の悲鳴と忍足の声。
「景吾ッ!!」
「っ!?」
忍足の叫び声と体が押されたのは同時…いや、押された方が先だったかもしれない。
ドンッ!
コンクリートの地面に跡部の体が叩きつけられるのと、耳に届く嫌な鈍い音はほぼ同時だった。
強い衝撃に眉を寄せながら体を起こし、軽く頭を振りながら目を開けた。
「痛っ…」
そして、瞳に映る光景に唖然とする。
先程見た時、歩行者信号は確かに青だった筈。
それにも関わらず、すぐ傍には1台の普通自動車が止まっていた。
「忍足……おい、忍足?どこだ」
不安と嫌な予感が全身を支配する。