novel
□はじまり
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最近、跡部の様子がおかしい。
周囲が心配する声をかけても、気のせいだの一点張り。
干渉を嫌う跡部なだけに、皆それ以上問い詰めることは出来なかった。
「っ…」
気分を紛らわそうと1人屋上へ繋がる階段を上っていた時、突然激しい目眩が跡部を襲った。
咄嗟に手摺を掴み、間一髪で転倒を免れる。
治まらない目眩を連れ屋上の鉄扉を押し開けば、冬を感じさせる冷たい風が吹き抜けていく。
西に傾き始めた太陽の光に目を細め、影となっている壁側へ足を向け、壁を背にゆっくりと腰を落ち着けた。
「はぁ…」
自然と漏れる溜息。
立てた片膝の上に手を置き、風に身を任す雲を眺める。
『好きなんや』
『言わずにはおれんかっただけやから、さっきの言葉は忘れてくれ』
氷帝の天才と呼ばれるテニスプレイヤー、忍足侑士から告白を受けたのは2週間前だ。
言いたいことだけ言ったまま、部室から出て行った忍足。
跡部は呼び止めることも出来ず、遠ざかっていくその背中を見送った。
その日を境に、忍足とは一切口を聞いていない。
否、避けられる毎日が続いていた。
「クソッ」
苛立ち隠せず、思わず音に変えてしまう。
それに合わせるよう、校内に次の授業の開始が近い予鈴が鳴り響いた。
ガチャン───…
不意に鉄扉が開いた音が耳に届く。