novel
□Merry Christmas'10
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────クリスマス当日の朝。
忍足の部屋のキッチンでは、未だかつてない程の騒がしさがあった。
「アカン!ちょお待ち!跡部それ、砂糖やなくて塩やて何度も言うてるやん」
「見た目は同じじゃねーか」
「味がちゃうやろ。ケーキのスポンジが塩辛くてどないすんねん」
料理をしたことがないにも関わらず、スポンジケーキを作ると言い出した跡部。
絶対に無理と確信できるだけに、せめてパウンドケーキをと頼んだものの却下されてしまった。
「なぁ、もうケーキは俺に任しとき」
「五月蝿い。邪魔だ。どっか行ってろ」
忍足は朝から気が気じゃない。
第一は恋人である跡部の身が心配だが、手順も知らず材料にも疎いだけに気が休まらなかった。
先程の塩と砂糖を始め、薄力粉と強力粉の違いさえ分かっていない。
ハンドミキサーは浮かすなと言っても浮かし、色々な場所に飛び散るクリーム。
(…飛び散る?)
そこまで今の惨状を見て、はたと冷静になって考えた。
理解していく中で、徐々に引きつる忍足の顔。
「跡部ー!ミキサーは浮かすなって言うてたやろ」
「テメェがちゃんと見てねぇからだろうが」
「どっか行け言うてた奴の台詞ちゃうで、それ」
後片付けにどれだけの時間が費やされるか、そう思うと既に疲れ果ててしまう。