愛おしい眼差しを向け、繋ぐ手に力を加えた。
「……」
すぐに応えはしないものの、力を加えようとする跡部の指が感じ取れる。
それだけで忍足は満足だった。
「顔赤いで、自分」
「煩ぇ。やっぱり離す」
「絶対離さへん。手ぇも自分の心も、全部俺だけのもんや」
「……クサい台詞」
眉根を寄せるその顔は不愉快からくるものではなく、TPOをわきまえろといった照れからの表情だ。
それから大分時間を費やし、漸く順番が回ってきた。
「賽銭箱には5円玉。札ちゃうで」
「っ、分かってる」
跡部の指が札入れに向かう動きを見逃さず、すかさず忍足は指摘をした。
取り出した5円玉を賽銭箱へ投げ入れ、2人で紐を動かし両手を合わせ目を閉じる。
お互い、願うことはたったひとつ。
合わせた手を離せば跡部の手を掴み、次の人に場所を譲る為に横へ移動。
「自分は何願ったん?」
「言う訳ねーだろ」
「残念やわぁ」
予想通りの回答を受け、忍足は掴んでいた手を離した。