novel

□全てが欲しい
3ページ/6ページ



眼鏡はただ無意識だったものの、確かにキスは頬や首筋にしか落としたことがない。

忍足は片手を眼鏡に運び、ゆっくりと外し障害を退けた。




「しかも、相変わらず苗字で呼びやがって」

「え…いやいや、自分かて俺を苗字で呼んどるんやけど」




呼び名に関しては忍足だけでなく、指摘する張本人も同じだ。

恐らく、忍足が呼ばないから合わせていたのだろう。

素直じゃない性格もまた愛おしい。



 . .
「景吾…」

「…っ、」




忍足は下半身が繋がったまま、顔を横に向けている跡部の口許へ顔を近付け、柔らかいその唇を自分のそれと重ね合わせた。

影が掛かったと思い目線だけを上げた瞬間、唇に与えられた温もりに目を見開く。




「ん…、おし…っ」

「愛しとるよ。めっちゃ好き…」




次いで、繰り返される愛の言葉に跡部の蒼碧眼が揺らいだ。

待ち望んでいた口付け。

障害物のない黒曜石のような瞳。

そして、名前。

口付けに応えるよう、跡部はゆっくりと忍足の首へ腕を回して引き寄せた。




「んぅ、ふっ…ぁ…」

「ん、…っ…景吾…はぁ…、」




角度を変え、舌を絡ませ、次第に口付けは濃厚になる。

 
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ