眼鏡はただ無意識だったものの、確かにキスは頬や首筋にしか落としたことがない。
忍足は片手を眼鏡に運び、ゆっくりと外し障害を退けた。
「しかも、相変わらず苗字で呼びやがって」
「え…いやいや、自分かて俺を苗字で呼んどるんやけど」
呼び名に関しては忍足だけでなく、指摘する張本人も同じだ。
恐らく、忍足が呼ばないから合わせていたのだろう。
素直じゃない性格もまた愛おしい。
. .
「景吾…」
「…っ、」
忍足は下半身が繋がったまま、顔を横に向けている跡部の口許へ顔を近付け、柔らかいその唇を自分のそれと重ね合わせた。
影が掛かったと思い目線だけを上げた瞬間、唇に与えられた温もりに目を見開く。
「ん…、おし…っ」
「愛しとるよ。めっちゃ好き…」
次いで、繰り返される愛の言葉に跡部の蒼碧眼が揺らいだ。
待ち望んでいた口付け。
障害物のない黒曜石のような瞳。
そして、名前。
口付けに応えるよう、跡部はゆっくりと忍足の首へ腕を回して引き寄せた。
「んぅ、ふっ…ぁ…」
「ん、…っ…景吾…はぁ…、」
角度を変え、舌を絡ませ、次第に口付けは濃厚になる。