novel
□この瞳に映るのは
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鍛えられた身体、濡れた髪から滴る雫、骨張った手。
それぞれのパーツに見入っていた時だ。
向けられている視線に気付いた忍足は顔を跡部に向け、何やら柔らかい笑みを浮かべたことに気付く。
悪気はないのだとしても、全てを見透かされていそうで気に食わない。
「…何だよ、笑いやがって」
「ん?可愛いなぁ〜思ただけや」
「誰が?」
「跡部しかおらんやろ」
「殴られたいのか」
「それは嫌やね」
嫌だと言っておきながら、未だ忍足の表情は緩いまま。
その視線に居心地が悪くなった跡部は、部誌を片付け帰り支度を始めた。
先に帰ろうかとも思ったが、部員を残すのもどうかと鞄を肩に提げて忍足を待つ。
「まだ広がってないみたいやけど、今は断り方がちょお変わっとるで」
上着を羽織り、鞄を肩に提げてロッカーを閉めながら忍足はそう告げた。
それには興味を覚えない筈はない。
「ほぅ。今はどう言って断ってんだ、あん?」
「気になる?」
「………」
何故だろう?
率直に気になると言えばいいだけにも関わらず、返答に詰まってしまった。
支度を整え終えた忍足が、ゆっくりとした足取りで跡部に近寄る。
無意識に後退ったものの、すぐ後ろにあった壁が背に当たりそれ以上は進めない。