そうすると、忍足が女生徒を振る時に使い始めた新しい言葉だと理解する。
「好きな奴…出来たのかよ」
「そや」
迷いない肯定する言葉を聞けば、跡部の胸に小さな痛みが走った。
しかし、理由が分からない。
忍足に黄色い声を上げる女生徒は多くいる。
中学生にもなると、好きな異性が現れても何の不思議もないだろう。
黙ったまま1人で思考を巡らせていた時、不意に忍足が跡部の髪を梳き撫でた。
「勝手に触るんじゃ…」
「早よ気付いてな」
「何で俺がお前の好きな女を見付けなきゃならねぇんだ、アーン?」
「その姫さん、めちゃくちゃ鈍感やねん」
問いに対しての答えになっていない忍足の言葉。
今、跡部は自分が複雑な表情を浮かべているなど気付いてないだろう。
眉間には皺を増やし、瞼を伏せ視線は地面へ落ちたまま、1人で何かを考えているようだ。
そんな跡部の姿を見て、忍足は両腕を体に回して胸元へ引き寄せた。
「!?おし…ッ」
予想外の出来事に驚き、蒼碧眼を見開いて体を硬直させる。
間近で香る忍足の匂いは酷く落ち着く。