強張っていた跡部の全身からは、無意識の内に力が抜けていき、自然と身を預ける形になっていた。
それに気付いた忍足はと言えば、体に回していた腕に力を込める。
互いの顔が見えない今、忍足は自分の顔がニヤけているに違いないと思った。
「早よ気ぃついてな、俺の姫さん」
「え…?」
忍足の紡いだ言葉が頭の中で木霊する。
何故、自分は抱き締められているのか?
何故、自分が気持ちを知る必要があるのか?
様々な疑問が、湧き水のように次から次へと出て来て止まない。
分かることと言えば、忍足の腕に抱かれていることだけ。
抱き締められて数分後、漸く跡部は解放された。
「ほな、また明日」
「あ、あ…」
何事も無かったように去っていく忍足の背中を、跡部はただ黙って見送る。
殴ろうと思えば殴れていた。
しかし、否定出来ない胸に感じる温かなモノ。
それが特別な感情、言葉で表現するなら“愛”と呼ばれるのだと跡部が自覚するのは、もう少し後のお話───…
(おい忍足)
(何や?)
(俺はお前が…)
(ストップ。その先は俺に言わせて)
>>終わり