ぼんやりとした瞳に映る風景。
顔を横に向けながら、室内の造りや物を眺めていく。
徐々にしっかりし始めた頭で、漸く今寝ている場所がどこなのかが理解出来た。
「ここ…っ、イッ…!」
あまりの驚きに上体を勢い良く起こした瞬間、ズキッと強烈な痛みが跡部を襲う。
痛みの中心部である後頭部に触れると、ほんの僅かだが腫れているのが分かる。
「…ってぇ、」
あまりの痛みに眉根を寄せ、走った痛みが和らぐのを前のめりになったまま待っていた時。
後頭部へ添えていた手の甲に温もりが感じられた。
それが誰の体温かは、わざわざ確認しなくても分かる。
数日触れ合っていないだけだったにも関わらず、確かに感じるものが心まで温めていく。
「まだ起きたらあかん。寝とき」
落ち着かせるような優しい声。
まるで喧嘩などしていなかったみたいに、忍足は普段と変わらず跡部に触れる。
痛みでキツく閉じた瞼から力を抜き、すぐ傍にいる忍足へ視線を上げていった。
そこで跡部の双眸が映し出した忍足の瞳には、心配する色がありありと滲み出ていた。