朝から雨が降っていたにも関わらず、傘を忘れる人間など1%にも満たないだろう。
跡部の場合、忘れた訳じゃなかった。
ただ、故意に持ってこなかっただけ。
雨は鬱陶しいけれど、1本の傘に2人で収まって帰ることは嫌いじゃない。
「―――跡部」
「何だよ」
雨音が傘に弾かれる音が響く中、不意に呼ばれた跡部は軽く視線を上げる。
当の呼んだ本人は、真っ直ぐ前を向いたまま。
「今週の土曜、ウチに泊まりに来ぇへん?」
「お前の家に…?」
付き合い始めて日が浅いこともあって、未だに忍足の家に行ったことがない。
忍足もまた、家に跡部を呼ぶタイミングを見計らっている最中だった。
多少驚きはしたものの、躊躇う必要は皆無だ。
驚きの表情から、徐々に笑みが滲み出てくるのが分かる。
「いいぜ。仕方ねぇから泊まりに行ってやる」
「ほんま?ほな、夜は跡部の為に腕振るうわ」
「フッ。満足出来なかったら帰るぜ」
「そらきっついなぁ〜」
泊まりの日について話に花が咲き、気付けば跡部の玄関前に辿り着いた。