「えらい視線の的やなぁ〜」
「だから嫌だって言っただろうが」
呑気に感想を述べる忍足。
眉間に深い皺を作り、少なからずドスの利いた声で呟く跡部。
注目を浴びることには何の不満もない。
しかし、プライベートの時にまで首を突っ込まれるのは不愉快だ。
恋人といる貴重な時間ともなれば、その迷惑は跡部に怒りさえ生じさせる。
だが、同性愛をオープンにしていない以上、むやみやたらと追い払うことも怒鳴ることも出来ない。
苛つきを見せる跡部を余所に、忍足は至って穏やかな表情のまま。
本来なら生徒会室でランチタイムにも関わらず、芝生のある中庭で食べようと連れ出したのは忍足だった。
理由は簡単。
天気が良いから、ただそれだけ。
「せやけど、気持ちええやん」
「外野が邪魔だ」
春の訪れを感じさせる風、太陽の光。
新しい息吹が広がる光景、匂い。
確かに気持ちはいい…けれど、やはり周りにいる女生徒の視線が煩わしい。
それさえなければ文句はないものを。
ぶつぶつと文句を言いながらも、跡部はその場で弁当を頬張る。