りくえすと。
□トクベツな朝、いつもの朝
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あんたは、気付いてるのかな?
何気無い朝のやりとりで、
おれの毎日は“トクベツ”に変わるんだ。
+ + + + +
「おはようございます陛下」
「んむ…陛下って呼ぶな名付け親ぁ…」
ごにょごにょと籠った声は徐々に消え失せて、有利は再び夢の世界へと落ちてゆく。
苦笑を漏らしたコンラッドは、有利の耳元に唇を寄せ、弟を起こさないように囁く。
「体調が悪いのなら、ロードワークは止めておきましょうか?」
すると、もそもそと布団が動き、漆黒の大きな瞳が開かれた。
「や…行く」
ロードワークのコースも半ばを過ぎ、やや息が上がってきたところで不意にコンラッドが問いかけた。
「最近…夜更かしでもしてます?」
「え…?なんで?」
有利はきょとんとして大きな瞳を見開いた。
「朝は強いはずの貴方が、ここ数日はなかなかベッドから出てこられないでしょう?」
「ななな何でもないってコンラッド!!夜更かしは…してるけど。ちょっと…考え事があって、さ」
「悩み事ですか?俺でよければ話してください」
「や、大丈夫!!全然、たいしたことじゃな…っうわっ」
話に気を取られていたせいで、有利は小石に足を引っ掛けてバランスを崩した。
衝撃を覚悟して反射的にぎゅっと目を閉じる。…が、予想したような痛みはいつまで経っても襲ってこない。
「大丈夫、ユーリ?」
コンラッドの柔らかな声が耳をくすぐった。
目を開けると銀の散る薄茶の双眸が有利の漆黒の瞳を覗き込んでいて…
つまり、コンラッドは主を怪我から救ったのだ。抱きとめる、否、抱きしめるという方法で。少し前を走っていたコンラッドはいつの間に振り返ったのか、有利と向かい合う形で、しっかりとその腰に腕を回していた。
「うわわわわわわっっっ!!!!」
有利は慌ててコンラッドの腕を振りほどいた。勢いを殺しきれず、そのままぺたりと尻餅をつく。
ロードワークの途中なので当然頬は上気しているのだが、それにしても、やけに赤い。
「傷つくなぁ、そんなに拒絶されると…」
困ったような表情で、立てますか?と手を差し出され、今度は素直に従った。
ただし、けしてコンラッドの瞳は見ずに。
「…っ、続き…行こうぜ」
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相談なんか、できる訳無いって。
おれが眠れないのは、
他ならぬ、あんたのことを考えてる所為なんだからな?
fin.
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