歪んだ空
□暁に立つ
3ページ/17ページ
「この盗っ人が!!」
大通りに突然罵声が響く。
ざわり、と行き交う人々がどよめいた。
可哀相に、と顔を顰めたおばさんに何があったと尋ねれば
「あぁ、落とした財布をただ拾っただけなんだよ」
見れば裕福そうに肥え太った男と
財布を持った子供が一人。明らかに慶の荒民(なんみん)と分かる、細い腕、ボロボロの服。
「汚ねぇガキが」
「物乞い風情で」
所々聞こえる男の声は聞くに堪えられるものではなかった。
見るに見兼ねた一人が
声をあげれば
「やめな。その子はあんたが落とした財布を拾ってくれたんだよ。」
「そうだ、いい大人が」
幾つかの賛同が返ってきた。
回りの雰囲気に、自分の分が悪くなったのを察して、チッと舌打ちをした。
「汚ねぇ餓鬼が触るな
さっさと渡しやがれ」
そう言うと腹いせにだろう、子供を突き飛ばして去っていった。