その他×陽子

□軌跡
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「景麒、具合はどう?」


乱を治め、王が帰還して数日後の事だった。


「主上!」

「楽にしていて。
すぐに帰るから。」

身を起こして礼をとろうとすれば優しく制された。


「それに私がいては良くはならないだろう?」

「主上…そんなことは」

微かにまだ血の臭いがする。しかし、それは主が望んだ事では無いくらい今ならわかる。

言い澱んだのを遮るように。




「ありがとう、景麒。」


―――…!

「あの時来てくれて。」

「嬉しかった。」




禁軍を出したのは自分の責だ。

酷い死臭がなさる。
罵ったのも自分。

感謝を述べられ事など何もないはず。


なのに?



「本当にありがとう。」

そういって主は丁寧に頭をさげた。





この方は――…本当に。
困った方だ。



「私は貴女の麒麟です。主上が頭を下げる事も礼を言う事も必要の無い事です」


困った方だが


どうして心が安まるのか。


「私がしたいからするんだ。と、言っても怒るのだろう?」

「――主上」

顔をしかめると、クスクスと笑った。

「景麒の小言が聞けたからそろそろ戻るよ」

そういって立ち上がると、部屋を出ようと扉に手をかけた。

少しだけ開いた隙間から一筋の光が漏れる。

「主上」

その後ろ姿に声をかければ、鮮やかな碧の瞳がむけられた。

「わざわざ足を運んで頂いたのに…その、申し訳無い」


フイとそらした顔
それが可笑しいらしくてまたクスリと笑ったようだった。

顔をあげれば優しく笑んだ主。

「早く良くなれ」

扉が押されて光が広がり彼女を包む。

その光は己の臥床にも届いて、
眩しさに目を細めた。


「そして共に歩もう。」


あぁ

きっと、貴女と歩くこの道は輝く未来。



END


血の臭いよりも鮮やかな王気を纏って。

貴女は歩んでいくのでしょう。






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