行合の空
□我、天啓を得たり
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慶東国、金波宮。
玉座の足元には、文字通り整然と数百人の官吏が居並ぶ。
「冢宰 靖共」
百官の長を束ねる男が名を呼ばれ、王に向かい礼を取る。
次々と読み上げられていく、形式上の任命。
「麦州侯 浩瀚」
礼を取りながら見た主は鮮やかな緋色の髪が印象的だった。
最上級の黒き衣を身に纏い、美しく飾られた王。
緊張の為か、表情はない。否、表情が無いのは緊張のせいばかりではないだろう。
――獣が側に使えていては、心が休まらないでしょうね…。
年若い胎果の女王。
何もかも分からぬ事ばかり。苦難は容易に想像がつく。
分からぬ事を善いことに、獣は王を蔑ろにするだろう。
言葉巧みに、政から遠ざける。
それは、今までと変わらない事なのだろうが。
けれど、
あの王は剣を振るい、玉座についた武王。
あの王は、自らの手を血に濡らしてここまで来たのだ。
人の命の重みを、
自分の責の重みを
人の痛みを、弱さを、強さを、優しさを、
あの王は知って玉座にいる。
知って、いるのだ。
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