行合の空

□我、天啓を得たり
1ページ/6ページ

慶東国、金波宮。

玉座の足元には、文字通り整然と数百人の官吏が居並ぶ。

「冢宰 靖共」
百官の長を束ねる男が名を呼ばれ、王に向かい礼を取る。

次々と読み上げられていく、形式上の任命。

「麦州侯 浩瀚」
礼を取りながら見た主は鮮やかな緋色の髪が印象的だった。
最上級の黒き衣を身に纏い、美しく飾られた王。

緊張の為か、表情はない。否、表情が無いのは緊張のせいばかりではないだろう。

――獣が側に使えていては、心が休まらないでしょうね…。

年若い胎果の女王。
何もかも分からぬ事ばかり。苦難は容易に想像がつく。

分からぬ事を善いことに、獣は王を蔑ろにするだろう。
言葉巧みに、政から遠ざける。

それは、今までと変わらない事なのだろうが。

けれど、
あの王は剣を振るい、玉座についた武王。
あの王は、自らの手を血に濡らしてここまで来たのだ。

人の命の重みを、
自分の責の重みを
人の痛みを、弱さを、強さを、優しさを、
あの王は知って玉座にいる。

知って、いるのだ。




.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ