僕<彼女
□V
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余談だけど、
僕が病院に居る訳を教えてあげよう。
理由なんて無いけど。
僕が架空の苦しみから救われたくて、自分の心の中だけで僕の存在を軽くしたいからってことにしておこう。
僕が入院した歳は7歳。
僕には、記憶が無い。
7歳より前の記憶が。
医者から何があったか聞こうと思っても教えてくれない。
親も。僕にはただ笑って会話を濁されるだけだった。
そして当時、精神が不安定だった。
いつも問題を起こした。
僕の無くした記憶は大きくて、いつも心には何かを求めていた。
僕は、怖かった。
今は退院して学校には通っているが、長期にわたって入院していたこともあり、病院にはよく来た。
たまに薬を貰いに来た。
まぁ、今も意味なく病院に居るだけなんだよ。
…多分ね。
*****
その日、彼女は僕の所に来た。
っていっても、最近は飽きる位病院に僕がきているから、病院に彼女が来た、という事だけなのだが。
彼女も伯父とかに何処かに連れてってもらうという思考は、…無いのだろうか。
そんな僕の気持ちは他所に屋上で出会った彼女。
「死なないか見張りに来たんですよ」
屈託なくほほ笑む。
昨日とは違う服だが、真っ白なワンピース。
何でそんな子供に僕の生活を見守られなきゃいけないのか、鬱陶しい気持ちは言葉に出すのも面倒だからゴミ箱に放り込んだ。
白が好きなんだな、心の中で「僕」を書き変えた。
だから僕も笑顔で返して、
「そっか」
と言った。
*****
外はそこまで好きじゃないんだけどね。
たまには外の空気を吸わないといけないから、
照りつける太陽に頭が焼けそうになって思わず目が霞んだ。
隣の少女を横目で見ると、全く暑さを感じないのか、鼻歌交じりに僕を見た。
全く、何が嬉しいのやら。
今は夏休みだから、僕も毎日暇を満喫していたけど、隣にいる彼女も暇をしているのだろうか。
そんなことを思っていると不意に彼女が僕を見た。
「あの、鈴木、玲、さん!」
申し訳なさそうにそう言う彼女。
「え、…なんで、僕の名前…」
知っているの?
そう言おうと思った、だけど僕の言葉を遮った少女…小崎葎
「病院の廊下を通っている時に通りかかった看護婦さんに聞いたんです」
「個人情報を漏洩するのは法律違反じゃないのかね」
「間違ってなくて良かったです」
ほほ笑む彼女。
だが、何処か寂しさの感じる気がした。
「で、何?」
僕が彼女の方に首を傾けると、高層マンションと、雲と、太陽と、排気ガスと、その他有害物質が背景に彼女の顔が目に映った。
「私と一日デートして下さい」
彼女の顔は、幼い子供の笑顔、だった。
「えっ?」
数えきれない疑問符と感嘆符が僕の脳内に侵入。
馬鹿か?そう素直に言葉が出てきそうになった。
そんな僕を見て彼女はため息を漏らした。
気持ちが彼女に漏れたことにショック。
「デートって言ってもただ単にこの町を案内して欲しいだけですよ」
冗談がきかない人ですね…と嘲笑われた。
僕も苦笑混じりにため息をついた。
そして、僕は何故か有り金を使って彼女を楽しませた。
まぁ僕の趣味に合わせたコースだから気に入ってくれたかなんて知らないけど。
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