BOOK

□ある女性の非日常
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彼女の名はリナ・レッシュ。
そこそこ名の知れたパティシエだ。
ここでは、今まで平凡に菓子作りをしていたのにいきなりある巨大マフィアの専属パティシエとなってしまったリナの、非日常を紹介しよう。
まずは出会いから順番に。






――――――

「うわ!?やば、もうこんな時間!」

その日、勤め先のケーキ屋で、遅くまで仕事をしていた彼女は、ふと見上げた柱時計に絶叫した。
もう針が頂点を指そうとしていた。
本当はもっと仕事したかったのだが、さすがにヤバい。
ただでさえ治安の良くないイタリアだ、夜はかなりまずい。
試作品のケーキを母に食べて貰おうと箱に詰め、コートを羽織る。荷物が比較的少ないバッグを肩に掛けて、仕事場を出た。
店から出て、怪しい人がいないか左右確認。タタタッと走った途端、細い路地から出てきた人影にぶつかってしまった。
ヤバい。瞬時に思った。こんな時間に裏路地から出て来るなんて、ヤバい人に決まってる。
ああ、さようなら母さん。娘は今旅立ちます。
人生を諦めた目をしている彼女に、ぶつかった人影は静かに話し掛けた。

「ごめん、大丈夫?怪我してない?」

心地好いテノールの声に、彼女は顔を上げた。
暗くてよく見えないが、明るい茶髪に細身の身体。
髪はあちこち撥ねまくり、某アニメのサイヤ人のようだ。
てっきりマのつく自由業関係の方だと思い込んでいた彼女は、ポカンとした顔で彼を見つめていた。

「えっと・・・大丈夫?」
聞こえていなかったのか、ともう一度問う彼に、リナは慌てて立ち上がった。

「ご、ごごごめんなさい!暗くてよく見えなくて・・・!」

勢い良く頭を下げる彼女に、彼、沢田綱吉は笑いかけた。

「そんな謝らないでよ。オレもタイミング悪かったし」

「で、でも・・・あ、これどうぞ!試作品ですけど、ケーキです!」






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