稲妻
□曖昧な距離
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宿舎の部屋で1人、ベットの上でうずくまる。
唇噛み締めて、必死に声を圧し殺して、
久遠監督久遠監督久遠監督久遠監督久遠監督………
出てくる名前はそれだけで。
何もかも投げ出して手に入るなら…、それでもいい。
誰に何を言われたっていい、私は…
ノックもなしに入ってきた誰かに目をやらず、
「帰って、」
と繰り返した。だけど、
「何故泣いている」
無愛想で低いあの声が降ってくる。
「帰って、…っ帰って…」
タオルを頭から被り目を瞑った。
「私にため口とは生意気な奴だな」
生暖かいそれが頬を流れて、なにかが音をたてて切れた。
「…」
もう頭の中が真っ白になって、私は本能的にその人に抱きついた。
「何の真似だ」
「もういい、もういい」
「…どうした」
「退学でも逮捕でもなんでもすればいい、」
「…」
曖昧な距離
それを越えるのは
不可能に近いから
私は私を捨てて引き換えで
手に入れる。