短編

□明日、また会おうか。
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放課後、独りで屋上へ。



たまにはサボったっていいじゃないか、部活なんて。


たまには、ね。



風が吹いていて、少し肌寒い。



『んんー、寒…』


「うん、ちょっと寒いなぁ…」


『!?』



驚いた。


いつからいたんだろう。



『先生…』


「なに、サボっちゃったの?」


『う…』


先生はにかっと笑うと、おいでおいでと手招きをした。

少女は素直に、柵にもたれて座っている先生の隣に腰掛ける。


「なに、部活つらいの?」


『いや…まぁつらいですけど…そうじゃなくて、今日は何となく』


先生は少女を気遣って、煙草の火を消した。


「ふぅん、そっか」



特に話すこともなく、ただ無言で時が過ぎてゆく。

流れる雲だけが時の流れを主張していた。



「…あんさぁ、」


『ん?』


唐突に話しかけられ、少女は先生の顔をのぞき込む。

と、彼は真っ直ぐに少女の瞳を見返した。


「彼氏とかいないの?」


『へ?』


あまりに予想外な質問で、間の抜けた声がでてしまう。


「いや、だから彼氏」


それでも先生はいたって真面目な風に聞いてくる。


『いえ、残念ながら…』


あははと肩を落として笑う彼女を、先生は安心して眺めた。


「ふぅん、てっきり高田くんと付き合ってんのかと思ってた」


少女は、空を仰いで呟いた先生に目を向ける。


『タカ?なんで…』


先生は少女が彼のことを"タカ"と呼んだことにすこし苛立ちを覚えながらも、口を開いた。


「よく二人で帰ったりしてるじゃん」


『あぁ、たまたまですよそんなの』


たまたまなはずがない。

先生は、高田が彼女に好意を寄せていることを知っていた。


「ふぅん…ま、いいけど」


『?』


自分のことをきょとんとした顔で見つめる少女の頭を、先生は微笑んでくしゃっと撫でた。


少女はえへへと照れ笑いをする。



『そういう先生は、彼女いないの?』


首を傾げて問う。


「いないよ」


先生は少女の頬に手を添えた。


『え…』


少女の赤くなった顔に、自分の顔を近づけていく。


『せっ…』


「じゃ、好きな人は?」


『え…』


もう少しで鼻と鼻が触れ合いそうなところで、先生が言った。


『好きな…人…』


「そ、好きな人」


『あ…の…』


彼のその真っ直ぐな視線から逃れられず、動くことができない。


「ん?」


普段とは違う、甘く低い声に溺れてゆく。


こつん


と、少女は返事の代わりに、額と額を合わせる。


彼の心臓は、今にも張り裂けそうなほど高鳴っていた。


少女のその行動を肯定ととり、ゆっくり、ゆっくりと、彼女の甘く柔らかな唇に自分のそれを重ねた。


またゆっくりと唇を離すとき、ちゅっと可愛いリップ音がなる。


『せん、せ…』


その真っ赤な頬と、桃色に濡れた唇が彼の頭をおかしくする。


彼はぎゅうと彼女を抱きしめた。



「好きだ、高田にも、ほかの誰にも渡したくない」


少女は戸惑いつつも、そろりと彼の背中に腕を回した。


『ん…あたしも先生がすき…』





教師だとか生徒だとか、そんなのは関係ない。



禁忌だとか言われても、どうしようもないくらい、キミが好き。


ただ、それだけ。





「明日、また…」






明日と言わず、



いつ、いつでも。






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