短編
□星ひとつ
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「もしもし?」
こんな時間に珍しい。
電話は石崎からだった。
「もしもし、三島?」
「うん、どしたん」
ベッドの上でゴロゴロしていた三島は、寝返りをうちながら訊ねた。
その際にストラップが携帯に当たり、カチッと音を立てる。
「ちょっと、何、カチッつった」
「あー、ストラップ」
「あーあれか、あのドーナツのやつね」
「んー」
また微かにカチカチと鳴っているその音から、石崎は三島が指でその女子らしいストラップを弄っている姿を思い浮かべた。
「ま、いいや。それよりさ、ね、ちょっと外出てみて」
「へ、外…?」
突然の提案に間の抜けた声を出しつつも、ベランダへと出られるガラス戸を開けた。
「ベランダでいいの?」
まさか石崎、家まで来てるわけじゃないよね、なんて笑いながら、傍にあったサンダルを引き寄せた。
「行きません阿呆、空、見てみ」
「阿呆って、ん、空…」
ああ、成る程ね。
三島はキュンと、胸が疼くのを感じた。
「今日、スーパームーンって言うらしいよ」
「そうなんだ…綺麗」
「だろ?」
ん…とだけ答えると、三島は暫く黙ってその大きく丸い月に見惚れた。
石崎も、電話の向こうに三島を感じながら月を眺める。
「石崎、」
「ん?」
(なんで私に電話してきたの?)
そんな言葉は飲み込んで。
「ありがと」
彼女の小さく紡いだ言葉は、
「…ん」
彼の心を大きく揺すった。
「…あれさ、月のすぐ左側の星、すごく綺麗じゃない?」
「ん…あ、あれかあ。ほんとだ」
携帯の向こうで石崎のゆび指すその星を、三島はしっかりその目に捉えた。
三島の小さな笑い声が、石崎の耳をくすぐった。
「石崎、」
「ん?」
普段に比べて少し柔らかいその声に、石崎はとくんと小さく温もりを感じた。
「月とか星とかって、それ一つだよね」
「…」
「だからさ、今私たちは離れたところにいるのに、全く同じものを見てるんだなーって」
(…あ)
「なんだか月とか星とかで繋がってるっていうか…」
(なんだか…)
「近くに感じる」
(なんて言うか…)
「石崎を…ね」
(やっぱり…「好き、だ、な」
「へ?」
三島の言葉にキュンときた。
その考え方が好きだと思った。
「やっぱり俺、」
(そうか僕らは今、この目に映る月とか星とかで繋がってる。)
「お前が好きだ」
告白というよりは一人納得したような言い草に、三島はくすりと笑った。
(今の言葉、なんなら月とか星とかにでも誓いましょう)
「うん」
それだけ言うと、三島はおやすみの後に電話を切り、メールを打ち始めた。
《明日もう一度、きちんと直接言ってよね》
月や星を通してばかりでなく…ね。
送信し終えると、携帯にちゅっとキスをして、布団に潜り込む。
三島はぎゅっときつく、自分の身体を抱きしめた。
end.