短編

□雨のちキミ。
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「うはぁ〜、すごい雨ですネ」


『…そうですネ』



急に降り出したその雨に、僕らは行き場を無くして店の軒下。


シャッターの閉まった店の前で、僕はしゃがみ、キミは立ち尽くした。




「止むかねぇ…」




ぼんやりと、激しく打ちつける雨を眺めて。




『んー…』


キミは降りたシャッターに背を預けた。




「ねぇ森さん」


『ん?』


雨を眺めたままの僕に、キミの視線が注がれた。



「どこに行こうとしていたの?」



豪雨に足止めを食らった僕らは、たまたまここに居合わせただけのこと。



『あー、うん、雑貨屋さんの帰り』



「ふぅん」




同じクラスの森さんは、



『木野くんは?』


「んー、ただぶらぶらしてただけかな」




この頃ちょっと気になる人。




「なに買ったの?」


『ん?見る?』



ふぅん、キミらしい。

ナチュラルな女の子らしい付箋紙。



「あー、可愛いデスネ」


『ちょっとちょっと、無理矢理でしょ』



少し怒ったように笑うキミを、初めて見た。



「いやでも、森さんらしい」


『…そ?』



少し照れた顔。

これも初めて。


そう言えば、きちんと話したのは初めてかもしれない。



「んー、止まないねぇ」



また雨を眺める僕につられて、キミも空を見上げた。



『でもまぁ、通り雨だから』



すぐ止むよ。


そう言って僕に向けた笑顔は、キミの言葉を合図に弱まったかのような雨のように、しっとりと柔らかかった。



『ほら止んだ』



「うん」



真っ白な空の隙間から、青色が覗きだした。



「そうだね」



そこから零れる光に目を細めながら、よいしょと立ち上がった。



「もう止んじゃったか」



伸びをしながら言う僕に、小首を傾げて見せるキミ。




「これからどこかに行くの?」


『ううん、どこにも』



僕の言葉の意図を察したキミは、少し笑った。



「ふぅん」



言いながら僕はニ、三歩踏み出して軒下から出た。



キミを振り返る。




「ん」




差し出した手は、キミをまだ雨の香る街へと誘う。



未だしとしとと降り残る雨を尻目に、僕らは未だ架からぬ虹を追う。




「今日は雨に感謝だなぁ」




今日知ったこと。



一に、キミは照れると目を伏せる。


二に、キミの手は小さく柔らかい。





三に、僕はキミが好きみたいです。








end.
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