短編
□5月の紅い花
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暖かい日光と涼やかな風を浴びて。
僕は本屋からの帰り道を、ふらふらゆっくりと歩いていた。
シャァァーと音がしたので少し避けると、そよ風のように、自転車が僕を追い越していった。
きっと僕と同じくらいの年のその女の子も、僕と同じように今日の穏やかな陽気を楽しんでいるんだろう。
とてもゆっくりと漕いでいる。
白い肌に薄く色づいた唇。
頬は唇よりも、ほんの少し紅かった。
そんな彼女に似合う、自転車のカゴに放り込まれたニ、三本で出来た花束。
その色は、彼女の頬と似た色をしていた。
そうか、今日は…
暫く立ち止まってぼおっと彼女の後ろ姿を眺めていた僕は、もと来た道へと引き返す。
少し戻ったところにある小さな花屋に、なんとなく寄ってみることにした。
なんとなく。
ただもしかしたら気紛れで、赤い花を一本くらい、買って帰るかもしれないな。
気紛れで。
end.