Kurobasu

□好きって言ってほしかった
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部活終え、家路に向かおうとしていたリコが校門にさしかかったとき、暗闇の中に浮かぶ青い人影を見つけた。
校門の傍でその場に座り込んでいるその姿はとてつもなく柄が悪い。

「――――わ、びっくりした」

相手が誰だか分かっていたとはいえ、暗闇の中にぽつんと誰かがいるというのはかなりの恐怖もので。

「何してんの?風邪引くわよ」

リコの気遣いに青峰は目だけを動かし、彼女を見上げた。
コートにマフラーと完全防備のリコに対し、青峰はセーターだけ。しかも、胸元のシャツのボタンを二個ほど開けている。
寒そうと言えば寒そうだが、その姿は彼には似合いすぎていて、顔立ちのいい彼に見惚れてしまうのも確かだった。

「よお」
「寒くないの?」

リコは白い息を吐き出しながら疑問をぶつける。

「俺、体温たけーから」
「……ああ、子供だもんね」

そういって小さく笑えば、青峰の眉間に皺が寄る。不機嫌そうに顔をそっぽ向かし、不思議なことに何も言い返さなかった。

「黒子くん待ってるの?ならもうすぐ来ると思うわ」

少しは暖かい服装にしなさい、と付け足して青峰の前を通り過ぎる。すると、突然青峰が立ち上がったかと思えば、リコの後に続いて歩きだしたのだ。
足音に気が付いたリコが振り返り、彼に向かって首を傾げる。

「……ストーカー?」
「ちげーよ。送ってく」
「……は?黒子くんは?」
「テツに用はない」

そうなんだ、と呟いてからじゃあこいつは何しに来たんだろうとリコは思う。
決して隣を歩こうとはせず、ただリコの後ろを間隔を開けて歩く……それだけだ。
変な奴、そう思いながら、リコは視線を前に向けた。



それから彼が話しかけてきたのは、もう少しで家に着くという時だった。

「……なあ、肉まん好きか?」
「肉まん?普通」
「じゃあ犬」
「犬より猫派。二号は別だけど」
「牛は?」
「肉の話だったら牛より鶏がいいわね」
「……トマト」
「あんまり」
「カレー」
「ていうか青峰くん」

リコはとうとう足を止め、怪訝そうな顔で振り返った。
さっきから唐突な質問攻めをしてくる青峰の意図が読めない。
一体どういうつもりか。そう問いただそうとしたリコは思わず目を丸くしてしまう。
誰が見ても分かるように、青峰はとてもぎこちない様子で恍惚と輝く月を見上げていたのだ。

「あんた、さっきから私に何を言いたい、」
「じゃあさ」

一際大きく言い放った青峰の声がリコの声を遮る。
月からリコへ視線を向けていく彼の動作に目が釘付けになった。

「木吉センパイ」

ぽかんという表現がよく似合う表情でリコはその場に立ち尽くす。
なぜいきなり木吉の名前が青峰の口から出てきたのも不思議であったし、普段年上の人に敬語を使わないというのに先輩と言ったことに対しても不思議、というより違和感が半端ない。

「で、どうなの?木吉センパイは」
「……なんで急に鉄平が出てくるのよ」

訝しげる表情のリコをじっと見据えた青峰は、ああそうかよと小さく呟く。

「青峰くん……?」
「じゃーな。リコ」

くるりと背を向け歩きだす青峰を見て、リコは家のすぐそばまで来ていたことにようやく気付いた。しかし、そんなことよりも青峰の様子のおかしさがどうも気になってしまうのだ。

「……なんなのよ」

人知れず、リコは青峰の背中に向かって呟いた。





「……さみー」

身を震わせ、ポケットに手を突っ込む。
ため息をつけば白い息が空を上っていった。
どうしようもなく聞きたかっただけだったのだ。リコの口から、どんな形であれ。

「……あー馬鹿だなー」

結局言ってはくれなかったけど。
これからも言ってくれることはないのだけれど。




好きって言ってほしかった



(どんなに尋ねてみたって)

(君は、)





end
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