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□白い世界で
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歩くたびに慣れない感触が伝わってくる。
見渡すかぎり白銀の世界となった冬の日。目の前を歩く彼女は黒い服を着ているためか、この世界に浮いてしまっている。俺も人のこと言えないけど。
彼女が歩く先にはまだ足跡がない。振り返ると、雪の上に残っている足跡は彼女と俺のしかなかった。
不思議な感じだ。まるで、俺と彼女しかいない世界のようで。
そうだったらいいのに、って思ったけれど、無理だよね、知ってるから。
俺は彼女を想ってはいけないんだ。俺は先の見えない黒い世界にいるから。
自分で選んだ、黒の世界。
もし、彼女と付き合えたとしても、彼女は幸せにはなれない。だって、俺は人に好かれない人間だし、悪に手を染めてしまっているし。
こんな俺を好きになってくれたら、それはすごく嬉しいことだよね。でも、今は望んではいけないんだ。


「狩沢」


前を歩く狩沢は、振り返ることなく返事をした。


俺は自分の生き方に後悔はしていない。


「かーりさわ」


意味もなく彼女を呼ぶ。あはは、と彼女の笑い声が聞こえた。


後悔するとしたら、それは君に出会ってしまったことだ。
出会わなければ、こんな気持ち知らずにすんだのに。


「もしもの話、していい?」


もし、俺がドタチンみたいに誰からも慕われて。
紀田くんみたいに明るくて。
新羅のように真っ直ぐ誰かを愛せる人間だったら。


君に好きと言えたのかな。



「もし、今の俺が死んで、また生まれ変わってくることが出来るなら、俺は今とは正反対の俺になるよ」



「だから、お互いまたこうして出会えたら、」



「俺と付き合って」




狩沢が立ち止まった。
返事はなかった。
嫌な気持ちが胸に押し寄せてくる。嫌われただろうか。それとも、答えはNOなのだろうか。


口が開くよりも先に足が一歩を踏みだしていた。


「かりさっ、」


狩沢の腕を掴むのと同時に、狩沢が振り返った。
勢い余って、ぐらりと体が傾く。


「わっ!!」


どしん、と狩沢が雪の上に背中をつけた。俺は狩沢の顔の横に手をついて、なんとか倒れるのを防いだ。



「……返事、聞かせて」



狩沢の頬に触れようとしたが、思いとどまる。
その時、狩沢の手が俺の手に触れた。そして、そのまま俺の手を狩沢の頬に持っていく。
狩沢の肌は、雪のように白かった。


「……いいよ」



狩沢はそういった。



二人は動かなかった。
狩沢の頬に手を触れたまま、時間が過ぎていく。
本当はもっともっと触れたいけれど、それは許されない気がした。
彼女は、俺のような人間に関わってはいけないんだよ。
彼女は、白い世界で笑っているべきなんだ。



「……あ、雪」



狩沢が小さく呟いた。
俺も空を見上げる。
雪が静かに舞い降りてきていた。


この雪に、俺と彼女の足跡は消されてしまうのだろう。それはまるで、白い世界から俺らを消してしまうような、そんな気がした。



「……帰ろう」



君の足跡が消えないうちに。



狩沢の上から起き上がると、狩沢はまだ雪の上にいた。
ぼんやりと空を眺めている。
俺はそんな狩沢の隣に座った。


今すぐ付き合ってもいいのに、と小さく呟く狩沢の声が聞こえたけれど、聞こえない振りをした。




白い世界で



(黒は交じらない)




end

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