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□恋するCocoa
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俺たちは常に行動を共にしている。

たとえ、不良だらけの場所にだって。


仲間が助けを求めているなら、俺らは行くんだ。



そう、どんなところにだって。



たとえ、狩沢の自宅でエヴァンゲリヲンの鑑賞会に強引に誘われたって。



俺らは、(てゆーか俺と渡草)



行かなければならないのだ。



「きゃっほーい!エヴァンゲリヲ〜ン!!」
「……なんだろ、すごく帰りたい」
「同感だな、渡草」

はしゃぐ遊馬崎を横目に、俺と渡草はため息をついた。
狩沢の自宅。来たのは初めてではない。狩沢の自宅だけではなく、このメンバーの自宅には何回も訪れたことがある。
もちろん、俺の自宅にこいつらが遊びに来たことは何回もあった。

「みんなー、飲み物は紅茶でもいいー?」

台所から顔を覗かせる狩沢。
お構いなくー、と遊馬崎が答えた。
狩沢の部屋はきちんと整理されていて、可愛らしい女の部屋って感じだ。
……本棚にある、いかにもBLだろ、というタイトルの本が並んでいなければ。


「おっまたせ〜」

トレイにマグカップを四つと皿に盛られた何かを運んでくる狩沢。
そういえば、互いの家に行くようになってから、狩沢はコップや箸などを、四つ買ったという話をしていたことがあったな。
狩沢らしいというか何というか、もはや家族じゃん、なんて。

「ドタチン笑ってる」

一旦、トレイを床に置いた狩沢が俺の顔を覗き込んでは笑う。

「あー考え事」
「エヴァが楽しみなのは分かるけど、もう少し待ってね」

……何かとてつもない勘違いをされているようだ。

俺の隣でギャーギャー騒ぐ遊馬崎と渡草。
誰かの家に来ると、なぜか二人は騒ぎだす。口喧嘩しているのか、ふざけあっているのか。とりあえず、仲が良いのは確かだ。
そんな二人を宥めるのが俺の役目で、遊渡キターと目を輝かせるのが狩沢、というのがお決まりで。
でも、なぜか今日の狩沢は特に二人を見てにやにやする、ということをしない。
そんな狩沢に、俺は何かが変だ、とハラハラしてしまう。
そして、そんな心配をしてしまう自分にもハラハラしてしまうのだった。

「な、なにかあったのか」
「え、特にないけど」

俺の心配をよそに、狩沢はマグカップをテーブルの上に置いていく。

「はい、ドタチン」

にっこりと笑う狩沢に思わずドキリと胸が鳴る。

「お、おぉ、さんきゅ」

手渡しでマグカップを受け取ったが、俺はなんとなくそのマグカップをテーブルに置けずにいた。
緑色のマグカップは俺専用のマグカップだと、いつか狩沢は言っていたのを思い出す。

「ではここで!絵理華からのプレゼントターイム!」

その言葉に、さっきまで騒いでいた遊馬崎も渡草も、俺も視線を狩沢へと向けた。
狩沢はじゃじゃーん、と言いながら皿をテーブルの上に置く。こんもりと盛られた丸いもの。

「今日はバレンタインだから、頑張って作っちゃいました!」

それはトリュフというもので、狩沢は得意気に三種類の味を作ったんだ、と説明した。
おぉーと歓声をあげる俺ら男性陣。

「まじそういうとこ女子」
「あざーす狩沢さん!ちなみに本命は……?」

にやにやと笑いながら、遊馬崎が尋ねる。

「本命なら渡したよ」
「「「え?」」」

思いがけない言葉に、俺らは固まった。
にこにこと笑っている狩沢。
誰だよそれ!と詰め寄る遊馬崎と渡草。
エヴァンゲリヲンどころか、恋バナに発展していく事態に、俺は目をぱちくりさせる。

こりゃ、今日は恋バナ決定だな。
むしろ、泊まりか?

なんて、ため息をつきながら、マグカップに口をつけようとした瞬間。
ふわり、と香る甘い匂いに気がついて。視線を落として、さらに気がつくこと。

ちらり、と遊馬崎の黄色いマグカップを覗く。茶色の渡草のマグカップも覗いてみる。

「誰にチョコあげたんだよ〜」
「聞いてないっすよ、狩沢さん!」

狩沢はテーブルに肘を乗せて、頬杖をついた。
そして、にっこりと笑う。ほんのりと頬を赤く染めて。

「さあねぇ」


そういって、狩沢は確実に俺を見て微笑んだ。
俺は慌てて視線を逸らし、マグカップに口をつけた。


口の中に広がるのは、甘い、甘いココアの味。





end

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