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□妬いてよ、ダーリン
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「「あ」」
声と声が重なる。
盾神キョウヤはひょっこり現れた天野まどかに視線を向けた。
まどかの背が低いためか、どうしてもまどかを見下ろす形になってしまうが。
「……何してんだ?」
「見ればわかるでしょ。買い物よ、買い物!」
そういうまどかは、両手で大きな紙袋を抱えている。
興味半分で中を覗けば、あらゆる食材が詰め込まれていた。
「すげー量だな。太んなよ」
「ばか、これはみんなのお昼の分よ」
「昼?」
キョウヤが聞き返せば、まどかはにっこりと笑う。
「最近みんなベイの特訓頑張ってるでしょ?私も何かお手伝いしたくて」
いっぱい食べて、体力つけてもらわなきゃ!
キョウヤはまどかをじっとみつめる。
「……お前はいつも俺らの支えになってるっつーの」
「え?なに?」
何か言った?とまどかが聞き返す前に、キョウヤはまどかから紙袋を奪い取る。
「わっ」
「……持ってやる」
そっぽ向くキョウヤを見上げ、まどかは笑った。
「ありがと!キョウヤ」
キョウヤは頬を赤く染めたのを隠すように、行くぞとつぶやいては歩きだした。
まどかはふふっと笑いながら、キョウヤのあとに続いて歩きだす。
しかし、まどかの足はすぐに立ち止まってしまった。不審に思ったキョウヤが振り返ると、まどかはショーウィンドーの前で何かを食い入るようにみつめていた。
キョウヤはため息をつきながら、まどかの元へ歩みよる。
「何してんだ?」
キョウヤもショーウィンドーを覗きこめば、そこには綺麗な髪飾りがたくさんならんでいた。
「アンティークな髪飾りって素敵よね」
そういって、髪飾りを眺めるまどかはどこからどう見ても女の子で。
いつもベイをメンテしているまどかしか知らないキョウヤは、まどかの横顔をじっとみつめた。
お前に似合うよ。
と柄にもなく言いかけたその時だった。
「……あの髪飾り、翼に似合いそう」
一瞬で、ピキッとキョウヤの中の何かが切れた。
えへへと笑うまどかの頬がほんのりと赤く染まっている。
「あ、あれも似合いそう!まぁ、翼は顔立ちいいからなんでも似合うと思うけど」
キョウヤは知らずにチッと舌打ちをした。
そして、ぐいっとまどかの腕を引っ張る。
「キョウヤ?」
「てめーこんなとこで時間潰してんじゃねぇ。さっさと行くぞ」
二、三歩歩いたところでキョウヤはまどかの腕を離した。
無性に苛立ちを覚えながら、キョウヤはもう一度舌打ちをした。
「おっ、やっと帰ってきた!まどかー俺腹減ったー!」
「ごめんごめん!すぐ準備する!」
「あれ、タテキョーも一緒だったの?」
遊の問いかけに答えず、キョウヤは出迎えた銀河と遊を通りすぎると、思いっきり紙袋をテーブルの上に置いた。
あまりの音の大きさに、周りにいたみんながキョウヤに視線を送る。が、キョウヤはそんな視線など気にも留めず、ソファーにどかっと座った。
「うっわぁ、なにあれ!ちょっとリーダー何したの?」
「えぇ?特に何も……」
「……随分と荒れてるね」
「あ?」
ソファーに寄りかかったままキョウヤは顔をあげる。
ソファーの後ろから声をかけたのは翼だった。
「何かあったのか?」
キョウヤはじろりと翼を眺めた。
綺麗に束ねられた長い髪。
キョウヤはふんっと視線を背ける。
「……お前、髪切れ」
「えっ、なんだよ急に」
「髪の長い男なんて、男じゃねぇ」
「……キョウヤも髪長いじゃん」
「てめぇほど長くねぇ!」
妬いてよ、ダーリン
(……まどか、俺を使ってキョウヤを妬かせるの、そろそろ止めようか)
(あれ、気づいてた?)
(……小悪魔だなぁ)
end