Kurobasu

□なんでもない日
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(……あ)

部活の帰り、校門の塀の上で器用に眠る猫を見つけた。

(シャッターチャンス!)

すかさずポケットから携帯を取り出して、居眠りを続ける猫にカメラを向ける。
カシャ、というシャッターを切る音に猫が目を開けた。

(……ありゃ)

気付かれた。

「……小金井くん?」

背後から聞こえてきた声に猫は身を翻して塀から飛び降りた。
あちゃー、と思いながらも俺は振り返る。

「お疲れっ、カントク!」
「お疲れ。こんなとこで何してたの?」
「猫がいたから写メってた」

見る?とついさっき撮ったばかりの猫の画像を見せれば、カントクの目が輝く。

(そーいうとこ見ると、女の子なんだなっていつも思う)

口には出せないけど。だって口にしたら、失礼な奴ね、なんて言われて鉄拳をお見舞いされるのは目に見えているし。

「……今どきの高校生はなんでもすぐ写メるわよね」
「うん?」
「猫、可愛い」

ありがとう、と携帯を返されたけど、俺はカントクの言葉に首を傾げたままだ。

「カントクだって、今どきの高校生じゃん」
「あら、そう思ってくれるの?」
「うんうん、思うー」
「……軽すぎてちょっとうざい」

えーひどいなぁ、なんて口を尖らしてカントクを見れば、目の前にいるカントクはどこにでもいる女子高生で。
まあ、確かにバスケ部の監督を務めるカントクは今どきの高校生にしたらちょっと特殊なんだろうなって思うけど。
部活が終われば、やっぱりカントクは今どきの高校生で。


「じゃー証明しよう!」
「は?」
「カントク、一緒に写メ撮ろ!」
「はあ?」

盛大な呆れたため息をつくカントクと無理矢理肩を組む。

「なんで小金井くんと写メを撮らなきゃいけないのよ」
「俺じゃ不満?」
「不満以前に謎!」
「だって、今どきの高校生はなんでも写メるってカントクが」
「だからって今撮るの?」
「青春の一ページに部活終わりのカントクとの写メを納める、うん、今がいいんじゃない?」
「そんなの、ありふれた日常じゃない」
「そんな日常だって、いつかは終わっちゃうよ?」

引退したら、当たり前の日常なんてなくなってしまう。
自分で言っておきながら、なんだか悲しくなってしまった。
カントクにそんな感情を抱いていることを悟られないように、わざとらしく携帯を空に向かって高くかざした。
携帯のカメラにしっかり収まるように、カントクとの距離を縮める。

「なーんでもない日万歳!」
「アリスか!」

カントクのツッコミとシャッター音が響いた。

「ご協力、ありがとうございます!」

ぺこりとカントクに一礼すると、カントクはため息をつく。

「……何か食べに行きましょうか?」
「へ?」
「なんでもない日万歳、なんでしょ?」

そう言いながら歩きだしたカントクの横顔を見てみれば、カントクはどことなく笑っているようで。

「ほら、行こ」
「うっうん!」

カントクの後に続く前に、撮ったばかりのカントクとのツーショットを確認した。
馬鹿みたいに笑う俺と、少しだけ戸惑っているかのようなカントク。
そこには間違いなく、今どきの高校生がいた。

(……待ち受けにしちゃおう)

バレたら怒られるかな、なんて思いつつ、画像を待ち受けに設定してしまった。
満足気に携帯を眺めてからポケットにしまう。

(こんな日が、毎日続けばいいのに)

君と過ごせる、なんでもない日が。

待ってよカントク、なんて言いながら走りだせば、待たないよー、と意地悪そうな笑みを浮かべたカントクが振り返った。




end
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