Kurobasu
□大食系女子の気まぐれ
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「塩バターラーメンを食べる女の子って可愛くない?」
メニュー表とにらめっこをしていた日向と木吉は、目の前に座るリコの言葉に顔を上げた。
「……はい?」
「こう……袖を長めにしてさ、塩バター一つ、とか言っちゃうのすごく可愛いと思うの」
リコはそういって、実際に手の指のところまで袖を伸ばして実践してみせた。
確かに可愛いと思うが、それがどうして塩バターラーメンに結びつくのかは謎である。
「……ごめん。カントクの言いたいことがわからない」
「はっはっは。リコは何を食べたって可愛いぞ?」
訳の分からないといった表情をする日向と、相変わらずにこやかな表情の木吉。リコはそんな二人にため息をついた。
「何言ってんのよ、鉄平。イメージよ、イメージ。味噌バターじゃだめなの。塩バターってとこが重要なポイントよ」
「……どっちも変わらないだろ」
「それで塩バターにコーントッピングって言ってきたら可愛さがさらに増すわ。そうかそうか、塩バターじゃ足りないか、って感じ?」
「……ごめん、本当わからない。とりあえず、注文していいか?」
リコの言うことが理解できないまま、というより理解し難いまま、日向は手を挙げて遠くの方にいる店員を呼ぶ。
「俺、味噌チャーシュー。木吉は?」
「んー、俺は醤油チャーシューコーンかな」
「……カントクは塩バターでいいんだろ?」
――話の流れ的に。
すると、対するリコはあっけらかんとした口調で答えた。
「――私はとんこつラーメン背油たっぷりで」
「塩バターは!?」
今までの話は!?と日向に問い詰められると、リコは眉間に皺を寄せ、日向を見やる。
「私は塩バターって柄じゃないもの」
「意味わかんねぇ、本当意味わかんねぇ。塩バターについて熱く語るのを聞かされてた時間返して切実に!」
「まあまあ落ち着けって」
木吉が日向を宥めた時、ふと近くの席から可愛らしい声が聞こえてきた。
「塩バター二つくださーい」
語尾にハートマークが付きそうな言い方に、三人は思わず顔を見合わせる。
ちらりと声のする方を見れば、二人組の女性がたった今注文を終えたところだった。
「……なあ、木吉」
「……なんだ?日向」
「……塩バター、可愛いな」
「……ああ、塩バター、可愛かったな」
二人はそういって、大きく頷いた。
そんな二人の様子を頬杖をついて眺めていたリコは、突然、ふんっとそっぽ向く。
「あーあ。これだから男って嫌なのよねぇ」
「はああ!?塩バター可愛いって言い出したのカントクだろ!?」
「言ったけど、目の前で日向くんたちに言われるとなんかむかつく」
「はっはっは。リコは何を食べたって可愛いぞ?」
「木吉、黙れ」
二人のやりとりに、リコは深いため息をつく。
「……どうせ、私みたいな大食系女子は可愛くないですよーだ」
大食系女子、初めて聞くようなそんな言葉を真面目な顔で呟くリコに、日向と木吉は思いきり吹き出した。
大食系女子の気まぐれ
(……俺は塩バタ系女子より大食系女子の方が好みだけど)
(俺もだぞ、リコ。いっぱい食べる君が好き〜)
((歌わんでいい))
end