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□後ろからMIYAJI
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「ふっふっふーん」

リコは軽やかなステップを踏みながら、陽気に鼻唄を口ずさんだ。
築何十年と経っている宿舎はどこからもなく木の香りが漂ってくる。なんて心地がいいのだろうか。

(ここを合宿所に選んでよかったわ。おまけに秀徳高校とも一緒になるなんて!)

誠凛高校バスケ部と秀徳高校バスケ部が偶然にも同じ宿舎で出会い、合同合宿をすることになった、なんて、一体誰が予想できただろうか。
風呂上がりの彼女の体を冷ますように、開け放している縁側から気持ちのいい風が入り込んでくる。その風に撫でられながら、リコはんっと背伸びをした。

(……今後の課題も見えてきたし、秀徳高校と練習試合もできるし、なんだか気合いが入ってくるわね!)

リコは楽しげにステップを一つ、二つと踏んでいく。
そんな時、鼻唄交じりに廊下を歩くリコの後ろから、すっと人影が近付いてきた。


「歌上手いね。なんていう曲?」


声をかけた人影はその場にとどまることはなく、すたすたとリコの横を通り過ぎていく。
歩くスピードが落ちるリコを流し目で見やると、宮地はふっと微笑む。

「なっ……!?」

――うそ、聞かれてた!?

顔を真っ赤にさせ、口をぱくぱくさせながら立ち止まるリコ。
宮地はそんな彼女に背を向けて歩き続ける。

(……あ、あ、あの人って確か秀徳の宮地さんじゃ……!)

やってしまった、とリコは立ち尽くす。誠凛の人にならまだしも、まさか他校の人に見られて、いや、聞かれてしまったなんて。
陽気にスキップをし、鼻唄を口ずさむ自分を想像すると、恥ずかしさのあまり頭から湯気が出てしまいそうだ。

(――明日、どんな顔して会えばいいのよ!?)



(……すっげー浮かれてたな、あの人)

宮地は背中に感じる視線に気付きながらも振り向くことはしなかった。
彼女を見てしまうと、先ほどまで楽しそうに笑みを零していた彼女の姿を思い出してしまうからだ。その姿を思い出すと、どうしても口元がにやけてしまう。
ふう、と肩の力を抜いて、気を引き締める。しかし、今度は顔を真っ赤にさせた彼女の姿を思い出してしまい、またしても笑ってしまった。


(……明日はなんて話しかけようかな)


宮地はそんなことを考え込みながら、んっと大きく背伸びをしてみた。




end

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