Drrr!!
□やさしい悪魔
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「もう俺に関わらないで」
突然告げられた臨也の言葉に私は顔を上げた。
彼は冗談で言ったのではなく、どうやら本気らしい。私の大好きな笑顔が彼から消えていたから。
「……どうして?私といるとつまんない?」
「……違う」
「私じゃ、将来性は感じない?」
「それも違う」
「私がオタクだから?」
「違う!」
臨也が声を荒げる。私は驚き、臨也をみつめた。
臨也は自分でも驚いたのか、困ったように笑いながら頭を掻いた。
「俺はそのまんまの狩沢がいいなってずっと思ってた。たまにシズイザとか言って振り回されるけど、嬉しそうに笑ってる狩沢が隣にいたら、振り回されるのも悪くはなかった」
だったら、どうして?
少しでも話したらなにもかもが溢れてしまいそうで。私はただ、自分の足元ばかりみつめていた。
「俺といたら、狩沢は幸せになれない」
うそだ。私、いままで幸せだったよ?
「だから……俺はもう、狩沢の前には現れない」
私はゆっくりと顔を上げた。まっすぐ彼をみつめる。
「それは臨也が悪者だから?」
「えっ?」
「私、知ってるよ。臨也が私の知らないところで何をしてるか。紀田くんや沙樹ちゃんに何をしたのか、私知ってるもん」
「……じゃあ話は早いよ」
臨也は深くため息をつく。
「狩沢も、三ヶ島沙樹のようにはなりたくないだろ?」
臨也、あなたは最低だよ。
彼女に何をしたか、わかってる?紀田くんがどんな思いでいたか、わかってる?
でも。
私、それでも臨也を受け入れた。
最低なのは私。
あなたがしたことを別次元に追いやったの。
「それでも私、臨也のことがっ」
「だめなんだよ」
私の言葉を遮るように、彼は思い詰められたように呟いた。
「俺は酷い人間だ。面白さのために誰だって利用する。ドタチンや遊馬崎だって俺の駒の一つなんだ。でも、俺は、狩沢を駒にしたくはない」
あぁ。なんだ、そんな理由。
「ドタチンたちを利用するのなら私も利用しなきゃだめだよ。だって私、ドタチンたちと一緒にいるもん」
「それでも俺は狩沢を駒にしたくないよ」
「……やだ。そんなこと言うと、私毎日臨也の家押しかけちゃうよ」
「狩沢」
嫌。あなたと離れたくないよ。ただ、それだけなのに。
「俺は悪者だから」
臨也はそういって微笑んだ。そして、静かに歩きだした。私に背を向けて、別れの言葉さえ言わずに。
私はその場にしゃがみこむ。腕に顔をうずめた。
うそだ。
臨也は悪者だけど、悪者なんかじゃないよ。
だって、私、臨也に何も悪いことされてないもん。
隣にいるだけで私を笑顔にしてくれた。幸せをくれた。
何も悪いことしてないじゃない。
私をそばに置いてよ。
利用してよ。
あなたのそばにいれるなら私。
ぽたりと、地面に雫が落ちる。
私といるときの臨也の笑顔は幸せそうだった。あれは見間違いだったの?
私があなたを幸せにしてあげるよ。
私をあなたの心が休める場所として利用して。
それならそばにいれるでしょ。
臨也。
私、ずっとあなたのことが。
「狩沢!」
涙で濡れた顔を上げる。潤んだ世界に臨也が見えた。
「俺、人間が好きなんだ。でも、人間の中で一番狩沢が好きだった!狩沢の笑った顔、大好きだった!」
遠くにいる臨也が消えていく。潤んだ世界から消えていく。
そうやって、あなたは私の欲しい言葉をいつだってくれる。
去るなら何も言わないで去ってほしかったのに。
だから私はあなたを忘れられないんだよ、馬鹿。
いつだって、あなたは優しかった。
もう私は笑えない。
あなたに出会う前までは一人でも笑えていたのに。
あなたと出会ったその日から、私はあなたのために笑ってた。
だから、私はもう笑えない。
私の気持ち、結局聞かないで行っちゃった。
それはあなたなりの思いやりなの?
やっぱりあなたは馬鹿な人。
あなたはいつだって優しかった。
優しくて、馬鹿な人。
(貴方はいつだって優しかったじゃない)
やさしい悪魔
end