Kurobasu

□首輪が見つからない
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※リクエストですが、激しくアテンション。
微裏要素多めです。
苦手な方は回れ右でお願いします。













ただの獣なんだと思う。
飢えた男が二人。
ただの獣なんだ、と思う。




夜になると、外は一段と寒くなった。
部活で体を動かしているときは寒さなど感じないが、部活が終わり、家へ帰るころは冬の冷気に当てられ、身を震わせてしまう。

(……さみぃー)

火神はポケットに手を突っ込ませ、ひたすらに夜道を歩く。
早く家に着きたい、という思いからか、自然と足早になっていた。しかし、そんな足取りはすぐに留まってしまう。
静寂な夜の中、微かに聞こえてきたのはボールが地面を跳ねる音。誰だ、こんな遅くに。火神は音のする方へ目を向けた。
視線の先にあるのは、ストリートバスケ場だった。


「お前、こんな遅くまで何してんだ?」

辺りにボールの音を響かせていた男が振り返る。
よお、と片手を上げてきた火神を見つけると、青峰は嫌なものでも見るかのように眉間に皺を寄せた。

「んだよ、火神か」
「俺で悪かったな」

むっとしたように答えれば、青峰はボールを両手で掴み、ゴールに向かってボールを放った。放った直後、青峰が笑みを浮かべたことに火神は気付かない。

「お前、いつも一人でバスケしてんのか?」
「だったらなんだよ」
「や、友達いないのかと」
「ふざけんなっ」
「相手がいねーなら、俺が相手してやるよ」

いらねーよ!と言おうとした青峰だったが、口を閉ざした。
火神はすでに鞄をその場に放り投げ、マフラーを外していた。

「……はっ、上等」

青峰は目を細め、火神に向かってボールを投げつけた。



火神は夢中になっていた。
自分と同じか、あるいはそれ以上の力を持つ青峰からボールを奪い合うことに。
青峰も同じだった。
青峰にとって火神という存在は本気を出せる数少ない人間である。だから、彼同様に夢中になってしまっていた。
――――二人がいるコートにあるベンチに、呆れたような目をして二人を見つめるリコがいた、ということなど気付くことなく。

「っしゃあ!このまま…………ってカントク!?」

青峰からボールを奪い、そのままゴールへ走りだそうとした矢先、ようやく火神の目にリコの姿が映った。
驚きのあまり、火神は足を縺れさせてその場に倒れこむ。

「うぎゃっ!?」

顔から倒れた火神を不思議そうに眺めていた青峰も、リコの存在に気が付いたようだ。
リコを見やり、額から流れる汗を拭う。

「何してんだ、アンタ」
「それはこっちの台詞よ。とりあえず、バカ神。こっちに来い」

リコの口調には怒気が含まれていた。
やべぇ、と顔を引きつらせながらも火神はおとなしくリコの元へ行く。
目の前に大柄な火神が立っても、リコは動じなかった。足を組み、下から火神を睨みつける。

「私、いつも言ってるわよね?部活が終わったらすぐに家に帰って体のケアをしなさいって。なのに、アンタは一体何をしているのかしら?」
「え、えと……カントクこそどうしてここに?」
「家に帰る途中でバスケをする音が聞こえてきてね。まさかとは思ったけど、まさかの光景が目に飛び込んでしまったわ」
「……すみません」
「あら、謝って済むなら警察はいらないってよく言うわよね?」

――やばい、かなり怒ってる。
もしや、明日の練習メニューは三倍か?なんて不安を募らせていると、突然、あーあ、と場に不釣り合いな大きなため息が聞こえてきた。
他人事のように、青峰はどすんとリコの隣に腰をかける。
リコはそんな彼にまで睨みを効かせた。

「言っとくけど、青峰くんにも言ってるのよ?」
「は?アンタは俺の監督じゃねーだろ」
「じゃなくても、ちゃんと言うことを聞きなさい。優秀な選手が体のケアをしっかりしてないと、放っておけないのよ。ここで体を壊したらもったいない。そうでしょう?」

凛とした彼女の口振りに青峰は呆気にとられる。が、優秀な選手と言われたのが嬉しかったのか、青峰は口元を手で覆い、自然とにやけてしまう口元を隠そうとした。

(……なんだこれ。面白くねぇ)

火神は小さく舌打ちをする。苛つかせながら、青峰とは反対側の、リコの隣に座った。
一つ年下とはいえ、体格のいい男二人と並ぶと、リコの背丈はいつも以上に小さく見えてしまう。
二人はちらりとリコに視線を向けた。

(……ちっさ)

小柄なリコを見つめていると、ふいにリコは横目で火神を見た。ばちり、と目が合い、慌てて目を逸らしたのは火神の方だった。
知らずと上目遣いになるリコを見ると、どうしようもなく彼女に触れたくなる衝動に駆られてしまう。

「ほんっと、ちっせーな」

火神はびくりと肩を震わした。心の声が漏れてしまったんじゃないか、と思わず口を塞ぐ。

「アンタ、それで本当に女かよ」
「なっ!?最低、どこ見てんのよ!!」

小さいは小さいでも、火神が思う小さいと青峰が口にした小さいの意味は大きく違う。
青峰からの視線を避けるように、リコは胸元を手で隠す仕草をした。
青峰はベンチの背もたれに腕を乗せ、顔を真っ赤にさせ俯いてしまったリコをじろじろと眺め続ける。

「だってよ、アンタより年下のさつきの方が発達してるってどういうことだよ」
「……知らない!黙れ、エロ峰!」

あーあ、どーすんだよ。火神は小さくため息をついた。
先ほどまでの凛とした彼女はどこにいってしまったのだろうか。今、ここにいるのは恥ずかしさと怒りで顔を真っ赤にさせる彼女しかいない。
しかし、その表情が彼らの欲情を掻き立てるなんて、当の本人は気付くはずもないだろう。
さっきとは打って変わった表情のリコに、青峰は笑みを浮かべた。

「……だいたい、青峰くんにはデリカシーっていう言葉が……ひゃあっ!?」

突然、裏返ったかのような声を上げるリコに火神は驚き、彼女に視線を戻した。

「んーまあ、ギリBでも膨らみはあるんだな」
「やっ、ちょっ……!」

青峰の手がリコの胸に触れている。感触を確かめるように何度も何度も手を這わせれば、リコの口からは甘い吐息が漏れていく。
その声を聞いた瞬間、火神はぞくりと体中の血が沸騰するかのような感覚を覚えた。

「ひゃっ、や、あんっ」

動こうとするも、青峰にがっしりと腰を押さえつけられ、身動きがとれないようだ。
リコは助けを求めるように、隣にいる火神に手を伸ばした。くい、と袖が掴まれる。

「か、がみ、く……あっ、」
火神はもう一度ため息をつく。
リコをどう助けるかというよりも、頭の中では違うことを考えていた。

自分よりも先にリコに触れた青峰に、とてつもない苛立ちと敗北感を感じていたのだ。
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