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□煌めく世界
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えっ、と思わず聞き返した。
ちらりと流し目でリコに目を向ける青峰。

「他の女とか、私でいいのか、んなくだらない質問すんなって言ってんの」
「ご、ごめん……」
「俺はアンタがいいって言ってんの、わかんない?」

どきりと心臓が跳ね上がる。
理解できないわけではない。彼が自分のことを誰よりも想ってくれていることは十分に知っている。
それでもまだ、時々不安が過ってしまうのだ。

「こ、この際だから言うけどっ……」
「あん?」
「た、確かに何年も付き合って今更言うのもどうかと思うよ?でも、」
「だから何だよ。さっさと言え」
「……私、料理できないの」

彼女の発言に、青峰は額に手を当てしゃがみ込む。

「あ、青峰……くん?」
「……アンタが料理できないことくらい百も承知なんだよ!!」

今更過ぎるんだよ、馬鹿野郎!と勢いよく立ち上がり、リコに詰め寄る青峰。

「そ、そうじゃなくて!」
「ああん!?」
「や、やっぱり……家庭的な女の人がいいって言うじゃない。その、結婚するなら……だから、私と付き合ってていいのかな、ってたまに不安になるのよ」

青峰は盛大なため息をつく。半ば呆れ気味だ。

「はーまじなんなの。さっきの説明なんなの、俺はアンタがいいって言ってんじゃんかよ!」
「そう……だよね、ごめん」

納得していないようなリコの態度に、青峰はただ苛立ちを募らせていく。

「アンタ、料理以外ならできるじゃねえか」
「……え?」
「掃除、洗濯。俺が嫌いな二つ」
「うん……まあ」
「じゃあそれでいいだろ。料理は俺がして、掃除洗濯はアンタの当番。はい、解決」

あー面倒くせー女、と呟きながら青峰は背伸びをする。

「あ、青峰くん、」
「リコは考え方が古いんだよ。夫婦なんて、二人で一つみたいなもんだろ?」

それでいいじゃん、と青峰は言った。
そう言った直後、二人の間に沈黙が訪れる。

「……やべ、なんか恥ずいわ」
「……だろうね」
「おまっ、事の発端はアンタが、」

口元を手で覆いながらリコの方へ目を向けた青峰の動きが止まる。
彼の目に飛び込んできたのは、可笑しそうに笑うリコの姿だった。

「……あははっ!青峰くん、優しすぎ!面白い!」

ひいひいと息を切らしながら笑うその姿に、青峰はどきりと胸を高鳴らせる。
ひとしきり笑ったリコは、ふと青峰がじっと自分を見ていることに気が付いた。

「……青峰くん?」
「お前、ソレもそろそろやめろ」

リコは青峰を見上げる。

「そろそろ名前で呼べ」
「あ……おみねくん?」

だからさ、と青峰は呆れたように言う。
リコの元へさらに近寄り、手を掴んだ。そして、右手の手袋を何の了承も得ずに抜き取る。

「ちょ、」
「どうせ、同じ苗字になるんだからよ」

青峰はポケットの中から何かを取り出す。

雪が舞っている。
彼の手に握られた何かが、光に当てられ、反射してきらきら光る。

雪が、舞っている。



「……左手にはまだ付けてやれねーけど、今はこれで勘弁しろよ」


ひんやりとした感触が薬指から感じた。


「う……そ」


右手の薬指。

きらりと光る、真っ白い指輪。



「……一応、婚約指輪だからな」



青峰を見つめれば、心なしか頬が赤い。
触れる彼の手が熱かった。
彼に降り注ぐ雪が溶けだしてしまいそうになるほどに。

だから、と彼は付け足す。




「左手の薬指は、ちゃんと空けとけよ?」




真剣な彼の眼差しに呼吸を忘れてしまう。
いつまで経っても返事をしない彼女に、彼は不安げな顔色を窺わせた。

「……なんだよ」
「……や、嬉しくて、言葉にならなくて」

ははっ、と彼は笑う。心底安心した表情だ。
口角を上げたまま、彼は彼女の顔を覗き込む。

「アンタ、泣いてんの?」

その言葉に、リコは困ったように笑う。

「……泣いてなんかいないわよ、馬鹿」
「アンタの泣き顔、レアだからさ」
「だから、泣いてないわよ!」
「あー、はいはい」

適当にあしらい、青峰は頭の後ろで手を組んでゆっくりと歩きだす。

「……アメリカ、一人でも行くの?」

数歩進んだ彼が立ち止まる。

「行くわけねーだろ。ほら、早く来いよ」

そう言いながら振り向いた彼に、彼女は胸が締めつけられるのを感じた。
嬉しくて、愛しくて、どうにもならないのだ。


「ほら、帰るぞ」


青峰はため息混じりに歩きだすと、少し遅れてリコも歩きだす。

「……今日は鍋にすっかー」

小さな呟きは彼女にも届いたようだ。
顔を上げ、彼の大きな背中を見つめる。

「……私、おでんがいい」
「あー?そこはキムチ鍋だろ」

リコは笑みを零す。

「……青峰くん、好き」
「名前」
「あ、ごめん……」
「はい、テイクツー」
「……もう言ってあげない」
「はあ!?そこは言えよ!」

青峰が振り返ろうとする前に、リコは彼の左腕に自分の右腕を絡ませる。

「……明日、雪が積もったら、一緒に雪だるま作ろっか」
「……はあ?なんで大学生になってまで雪だるま作んなきゃいけねーんだよ」
「いいじゃない。はい、決定!」
「ふざけんな」


――とか言っちゃって。
貴方は絶対、私と一緒に雪だるまを作ってくれるんだ。
あーだるい、なんて面倒くさそうに口にしながらさ。



リコは、右手にはめられた指輪をそっと眺めた。







雪が降っている。
貴方の照れた横顔。
右手の薬指。


白い、指輪。




私はこの日を、一生忘れないだろう。







「……ありがとう、大好き」







煌めく世界






(いつだって隣に君がいますように)





end
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