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□アニマルプラネット
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「――そうだ、動物園に行こう」

にこにこと満面な笑みを浮かべながら、あの人は言う。

「…………はあ?」

唐突に告げられたカントクの反応は……まあ、そうなるよな。
本当、あの人はよくわからん人だ。そんなことを考えながら、二人を残して部室を去ろうとした、その時だった。
火神、と背中に声がかかったのは。


「火神も一緒に行こう!!今度の部活のオフ、動物園!!三人で!!なっ!?」


……いやいや、なぜ俺も巻き込まれた?





アニマルプラネット







「うおーすごい迫力だなあ!こう間近で見ると感激するよなあ!」

大きなゾウの前で、子供のように無邪気にはしゃぐ木吉は、目を爛爛と輝かせながら振り返る。

「楽しいな、リコ、火神!!」

そんな彼から少し離れた場所で肩を並べる二つの人影。

「「……寒い」」

リコはマフラーに顔を埋め、火神は寒そうにダウンジャケットに首を竦めながら、ともにぶるぶると体を震わした。

「てか、なんで屋外なんすか!超さみーよ、です!!」
「いいじゃないか、動物園!火神は日本の動物園、初めてだろ?」
「初めてです……けど!!もっと他にあっただろ!!ほら、水族館とか……」
「水族館はリコがダメなんだよなあ」
「え、なんでですか」
「水族館行くとお腹減るらしいぞ。魚がたくさん泳いでるからな」
「どんだけ食い意地張ってんすか!?」
「私は別に水族館でもいいって言ったわよ。その代わり、帰りは寿司屋行こうっていう約束付きで」
「そんなん気分下がるわ!!」
「まあまあ……せっかく来たんだから、楽しんでいこう!なっ?」

ぽんっと火神の頭に手を乗せ、木吉は笑う。
その手が離れると、火神はああもう、と頭をがしがしと掻いた。
照れてしまった火神に気付くことなく、木吉はあっ!あっちにキリンがいるぞ、と声を上げると、二人のことなどお構いなしに駆け出していってしまった。
大きな子供を追いかけるように歩き出した二人は、どちらからもなく大きなため息をつく。

「……なんなんすか、あの人」
「あれが木吉鉄平よ」

単純かつ的確な返答。不覚にも火神は吹き出した。

「でも、まあ、私としては火神くんが本当に動物園に来てくれるとは思わなかったけどね」

そう言って、隣を歩くリコが火神を見上げる。
彼女に見つめられ、ほんのりと頬を赤くさせる火神。
別に、と呟きながら首に手をあてる。

「……なんも予定なかったし、先輩の誘い、だし」
「あら?日本の縦社会がようやくわかってきたの?」
「なっ……そういう意味じゃ……たまには、こういうのも悪くないっていうか」

口をもごもごさせる火神に、リコはとうとう吹き出した。

「私もね、たまにはこういうのも悪くないかなって思って来たのよ」

リコはそう言いながら、遠くの方でキリンを見上げる木吉を愛しそうに眺めた。
その視線に気付いた火神はついむっとしてまうが、そんなことに彼女が気付くはずもなく。

「……鉄平に気を遣わせちゃったなあ」

思いがけない言葉に、火神は、は?と返す。

「私が部活のことでイライラしてたこと、鉄平にはバレてたの。動物園に行こうって誘ってくれたのは、私を気分転換させたかったみたい」
「……カントク、イライラしてたんすか?」

彼らしくない声色に顔を上げ、リコは慌てて頭を振る。
火神が心配そうに自分を見下ろしていたのだ。

「や、別にあんたたちにイライラしてたわけじゃないからね!?こう……もっとみんなを上手くさせるにはどうしたらいいんだろうっていろいろ考えてたんだけど、いい練習メニューが全然浮かばなくて!」

全力で否定するも、火神の表情は一向に優れない。あたふたするリコから顔を逸らしながら、火神は口を開いた。

「……俺、頑張りますから」
「……うん。なんか、ごめん」

なんで謝るんだよ、と言いかける前に、リコが火神の腕を掴む。
驚いて彼女を見やれば、えへへと笑う彼女の姿が目に入った。どきりと心臓が跳ね上がる。

「せっかくだし、楽しみましょ!」

リコに引かれるように歩きながら、前を歩く彼女の後ろ姿を眺める。
木吉の元へ辿り着いたらこの手は離されてしまうのか。そう思うと、火神は少しだけ寂しくなった。
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