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□アニマルプラネット
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キリンの前にて。

「……キリンってなんだか紫原くんを思い出すわね」
「えっ?」
「そうだなあ、あいつ、背高いもんな!」
「……キリンって背高いっていうか、首が長いっていうか……ええっ?」


コアラの前にて。

「コアラ可愛いー」
「コアラは水戸部って感じだな」
「……」
「それわかるー!土田くんはカピバラって感じ」
「じゃあ伊月はキツネザルだな!」
「じゃあ、ってなんだよ!てかすごいとこから攻めたなっ!!」
「えー?伊月くんは普通にキツネって感じがするけど」
「キツネは黄瀬だろー?」
「……アイツはチーターじゃないすか?」
「何言ってんのよ。黄瀬くんはクジャクに決まってるじゃない!」
「「ぶっ!!」」


ふれあいコーナーにて。

「きゃー!!ハリネズミ可愛いー!!ほら見て見て!!可愛くない!?」
「リコすごいな。ハリネズミ持てるのか」
「手を差し出したら乗ってくれたのよ!もう可愛いー!桜井くんみたい!」
「「……え?」」
「ハリネズミ飼いたいなあー」
「……リコは桜井が好きなのか?」
「……別に羨ましくなんかないし」


トラの前にて。

「鉄平はクマよね」
「そーかー?」
「そうそう。で、火神くんはトラって感じ」
「はっはっは!大我だけにな!」
「ダッ、ダジャレのつもりじゃ……!」
「なんだ、お前。やんのか、この野郎」
「こらバカ神!トラに喧嘩売るなっ!!」


ヒョウの前にて。

「ヒョウは青峰だな」
「そうねー」
「ああ……黒ヒョウ、っすね」
「「……ぶはっ!!」」




「ラクダは誰に似てるかしら?」
「……まだ続けるんですか、それ」
「なによ、火神くんも後半ノリノリだったじゃない」

火神の一言に、リコはぷうと頬を膨らます。
ただいまラクダの元へやってきた三人。なんだかんだ、楽しく回っているようだ。

「……まあ、つまらなくはなかった、けど」

火神は頭を掻いて、照れたようにそっぽ向く。
素直じゃないなあ、と彼を眺めながらリコは微笑んだ。
ちょうどその時、冷たい冬の風が三人の間を吹き抜けていった。あまりの寒さにリコは身震いし、両手に息を吹きかける。
その様子に、リコの両隣にいる木吉と火神は彼女に目を向けた。

「寒いんすか?」
「まあね」
「こうすれば温かいぞ、リコ!」

背後から木吉の声が聞こえ、振り返ろうとした矢先。
リコの体はふわりと何かに包まれるのを感じた。

「っ!?」

驚いたのは、本人よりも火神だった。
コートの前を開けた木吉が、そのままコートの中へリコを入れるように後ろから抱きついてきたのだ。
小柄なリコの体はすっぽりと木吉の腕の中に、もといコートの中へ収まってしまう。

「ちょっ、鉄平!?」
「リコ、温かいな!」

あはは、と笑いながら、木吉は呑気にリコを抱きしめる。端から見れば、いちゃつくバカップルである。

(なっ……何してんだ、この人!!こ、これが日本のおしくらまんじゅうっていうやつなのか!?そうなのか!?)

目の前で突如起こった出来事に、火神は一人焦り始める。
木吉の行動にリコは顔を真っ赤にさせているものの、振り解こうとする気配は見られない。
嫌、ではないのだろうか。つまり、そういうことなのだろうか。
驚きから嫉妬へ、火神の気持ちが移り変わろうとした、その時だった。リコを大切そうに抱きしめていた木吉が、火神へと目を向けたのは。
木吉はいつものように、にへらと締まりのない顔で笑う。

「火神もやるか?」


…………はああああ!!?


ほれ、と場所をバトンタッチされても困る。非常に困る。第一カントクが困ってんじゃねえか!!
心の中でツッコミを入れ、どうしたものかと火神はリコを見やる。
リコは木吉がいなくなったから、寒そうに腕をさすっていた。
葛藤との戦い。そして、火神が出した結論。
大きな腕を伸ばし、リコのお腹へと手を回した。
ひゃっ、とリコが小さな声を上げる。

(……あ)

ぎゅうっと彼女の体を抱きしめると、彼女の温もりを感じた。
彼女と触れている部分がとても温かく、さらに心地がいい。

(確かに、これは温かいな。これがおしくらまんじゅうの威力か……)

身を屈め、頬をリコの頭にすり寄せてみる。

「かっ……火神くんっ!」

火神の無意識の行動に、とうとう胸の中にいるリコが耐え切れなくなったかのような声を上げた。
そこで、ようやく火神ははっと我に返る。

「――うわっ!」

飛び跳ねるようにリコから離れれば、顔を真っ赤にしているリコの姿が目に入った。

「……ばか」

少し怒っているかのような、あるいは恥ずかしがっているのか、火神を見上げるリコの目には、うっすらと涙が浮かんでいる。

「火神」

木吉に名前を呼ばれ、火神はぎょっとしたように肩を跳ね上がらせた。
先ほどまでのお気楽な木吉とは打って変わったような雰囲気。眉間に皺を寄せて、火神を見つめる。

「……火神、そんなに温まりたいなら、俺のとこ入るか?」

自分のコートを開き、真面目な顔で、心配された。

「入らねえよ!!!です!!!」

――やっぱりこの人、馬鹿だ。

俺も結構温かいぞー?とにこにこしながら言う木吉に、火神はため息をつく。
そんな中、一番の被害者であるリコは、二人に背を向けて歩き出した。

「あんたたちなんか、もう知らない!」

そんな言葉を残して歩き出す彼女の後ろ姿から見えたのは、赤く染まった耳元だった。
木吉と火神は顔を見合わせ、火神は申し訳なさそうに首に手をあて、木吉は首を竦めて笑ってみせた。
二人肩を並べて彼女の後を追う。

「……つーか、木吉先輩」
「なんだ?」
「ぶっちゃけ、今日カントクと二人きりで来たかったんじゃないんすか?」

なんで俺を誘ったんすか、と疑問を口にすれば、木吉は目をぱちくりさせた。

「そんなの、大勢の方が楽しいからに決まってるだろ?」

違うのか?と彼はにへらと笑う。

「それに、火神はまだ日本の動物園行ったことないだろうなあって思ってな」


――意外と楽しいだろ?

木吉にそう言われ、思わず口籠ってしまう。

「……アンタ、やっぱ変」
「えー?そーかー?」

にこにこと笑みを絶やすことなく、木吉はああでも、と言葉を続ける。


「リコの隣は、譲らないからな?」


笑みの中に垣間見えた、挑戦的な目つき。
しかし、それは一瞬の出来事で。
すぐに木吉はいつものように笑顔を作ってみせる。
彼の本性に触れた火神はその姿に面食らうも、すぐに大きなため息をついた。


「――それは、俺もっすけど」


火神は苦笑いを浮かべ、視線を前に向けた。
遠くの方には、二人の元から離れてしまったリコがいる。
動物を見ているのか、一つの檻の前で佇んでいるのが見えた。

「行くかー。リコのとこ」
「うす」

二人はそう言葉を交わして、愛しい彼女の元へと急ぐのだった。
目指すは彼女の隣、ただそれだけ。






(そこはアニマルプラネット)
(君に懐かれるなら、)
(トラでもクマでもなんでもいいよ)





end
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