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□うさぎさんをつかまえて
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「……へええ!意外と盛り上がってるっスねー!」
「確かに。今日のおは朝のラッキーアイテム、藁人形も売っていたのだよ」
「うえ……そんな怪しいもの堂々と持ち歩かないでくださいっスよぉ……」
「もーらい。お、うめえ」
「ああっ!私のベビーカステラ!何するのよ、大ちゃん!」
「あー綿菓子もあるー。あーチョコバナナもあるー。何ここー天国ー?」
「……敦、あまりふらふらしないでくれ」
「えー、だって赤ちん、お菓子が呼んでるからー」
「……敦。僕の言うことは?」



「"ぜったーい"……的な感じでアテレコしてみたんだけど、どう?」

校舎の三階窓際に寄りかかっていた小金井は両隣にいる彼らに目を向けた。

「「的確すぎるアテレコありがとう」」

声を揃える日向と伊月。
眼下に広がる生徒たち手作りの屋台の列。
その間を悠々と、むしろ堂々と歩くカラフルな集団。
その様子は遠くから見ても、

「あっはっはー、あいつら超目立つー!!」

と、いう感じなのだが(小金井氏曰く)。
呑気な彼の両隣にいる日向と伊月はただただ苦渋のため息をつくことしかできなかった。

「……日向」
「言わんでもわかるぞ、伊月」

二人は顔を見合わせる。
そして、確認するように頷き合うのだった。






「こーんにちはっスー!!」

やけに間延びした声とともに、先陣を切って黄瀬がとある教室に飛び込んだ。
メイド喫茶ならぬ、執事喫茶を営んでいたそのクラスは、突然の来訪者に目を向け、次の瞬間には女子生徒の歓喜に満ちた歓声が上がった。
モデルの黄瀬くんだ、本物!?と言った声が上がる中、スーツ姿の日向が額に手をあてる。

「おーい黄瀬。客とるな、客」
「あ、日向さん!」

黄瀬の後ろからぞろぞろと現れるカラフルな集団。その中の一人、唯一の女性である桃井は、スーツ姿の日向と、奥からやってきた同じくスーツ姿の伊月を見ると声を上げた。

「きゃー!!日向さんも伊月さんもすごく似合ってますよお!」
「……なんか桃井に言われるのは悪くないな」
「……うん、そだね」
「つーか、リコは?」

頭をがしがし掻きながら教室内を見渡していた青峰は、当初の目的である人物の姿がないこととがわかると、不満そうに桃井に目を向けた。

「おい、さつきー。リコのクラス、ここで合ってんのかよ」
「ええっ、合ってるよー。ねっ、日向さん?」
「あー……合ってる、けど」
「あー?じゃあなんでいねえんだよ」

不満そうに眉間に皺を寄せる青峰に、日向は思わず口籠る。
彼らがリコ目当てでここにやってきていることなんて、日向たちは重々承知である。だからこそ、リコの居場所など教えたくないのだ。
キセキの世代が我らがカントクに好意を寄せているように、自分たちもまた彼女に好意を寄せているのだから。

「カントクは忙しいんだよ」

日向の代わりに伊月が答える。にっこりと、営業スマイル付きで。
黙っていればいい男、という称号を持つ伊月の笑みも、キセキの世代黄瀬と渡り合えるんじゃないか?と日向はふと思う。
とはいえ、イラッとしてしまうのもまた然り。

「ここに来るかなんてわからないし、今日はひとまず帰ったら?」

一際目立つカラフルな集団は揃いに揃って納得のいかない顔をした。
ナイス伊月!と日向が心の中で伊月を称賛した、直後のことだった。
突然、パンパンッとクラッカーの音が廊下から響き渡る。
その場にいる誰もが何事かと目を向けて、ぎょっとした。
事の状況にいち早く感づいた日向と伊月はあちゃーと額に手をあてる。
クラッカーの紙吹雪とともに颯爽と姿を現したのは、金色の髪、フリルが際立つ水色と白色のワンピース、白のニーハイを履いている……もとい、某アリスのコスプレをした生徒だったのだ。
廊下のど真ん中で、堂々と仁王立ちしている。
可愛い、と素直にそう言えたらどんなによかったことだろうか。
確かに、そのアリスは可愛い――――上半身は。

「……うっわあー……」

スカートから覗かせる、見事な筋肉質のごっつい足。
そう、アリスは紛れもなく男子生徒だったのだ。
誠凛の生徒たちは彼が誰だかわかるからだろう。お腹を抱えて笑いながら彼を眺めるのだが、他校の生徒はそうはいかない。口を開け、思考が停止してしまったようだ。
と、そこへアリスの横にいた様々な帽子をかぶった数人の生徒が辺りにチラシをばら撒き始めた。
なんだ、なんだとそのチラシに見入る生徒たち。

「どうぞー」

たまたま廊下側にいた紫原にチラシが渡される。二メートルを超える男に臆することなく笑みを浮かべたままチラシを手渡した女子生徒の心意気に尊敬する中、黄瀬、青峰そして桃井は紫原の手にあるチラシを興味津々に覗き込んだ。

「うぉ……うぉう?」
「ウォンテッドだよ、大輝」

赤司が自分の手の中にあるチラシを見ながら呟いた。WANTED。ふっと緑間が笑い、それを睨む青峰。

「皆さん、手元のチラシを見ましたかあ!?」

司会者らしき生徒がぐるりと辺りを見渡す。

「二日間に渡る誠凛高校文化祭を盛り上げるために開催されるこのゲーム!!気になる人も気にならない人もさあ僕の声に耳を傾けてみよう!!チラシに載っているのは、そう!我らが誠凛の生徒会メンバー!!ただいま生徒会はアリスのキャラに扮した姿で逃走中だあ!!!」

おおっ、と人集りから歓声が上がる。

「生徒会メンバーはそれぞれコインを持ち歩いている!!メンバー全員のコインを集めた勇者はなななななんと!!!夢の国へのペアチケットを贈呈だああ!!!」

その発言に、どよめきが一層大きくなった。
司会者はピースサインで周りの生徒の歓声に応えるアリスを指差す。

「もちろん、この男……いや、このアリスちゃんもその中の一人!!ラスボスと言っても過言ではないだろう!!我らが生徒会会長の大河内光さんだああ!!さあ!!夢の国に行きたい貴方!!前代未聞のゲームに参加しませんか!?参加はもちろんタダ!!逃走の国のアリスからコインを争奪せよ!!まもなく開催ですっ!!」

不敵な笑みを浮かべたアリスがクラウチングスタートの姿勢をとる。

「3、2、1……ゲーム開始ぃ!!!!」

司会者が深く息を吸い込み、手にしていた笛を思い切り吹いた。ピピーッと力強い音が学校全体に響き渡る。
その音を背に、勇ましいアリスが一気に廊下を駆け出した。その後を追いかけるように何人もの生徒が走り出す。
面白さ半分、夢の国のペアチケット欲しさ半分、といったところだろう。

先ほどまでの賑やかさが一変。静寂が訪れる。
先に口を開いたのは、意外にも赤司だった。

「実に面白い企画だ」
「や、面白い、けど……アレ、生徒会長なんスか?」
「……そうだ。あれが誠凛の顔だ」
「あの人、足はやー」
「まあ、陸上部のエースだし」
「……捕まる気がしないのだよ」
「つーか、そいつをラスボスに持ってくる時点で誰にもペアチケットやるつもりないだろ」
「――ああっ!!!」

そんな会話が飛び交う中、チラシを見ていた桃井が大きな声を上げた。

「ここここ、これっ!!」

チラシの一ヶ所を指差す桃井。その指の先に目を向け、カラフルな男たちはあっと驚きの声を上げた。

「これは……」
「うさぎの……」
「リコちんだー」

某アリスのキャラクターに扮した生徒会メンバーの面々。その中に、真っ白のふわふわなパーカーに、うさ耳付きのフードをかぶったなんとも愛らしいリコの姿があったのだ。

「うおおおおリコさん可愛いっスー!!」
「反則です、これは反則です!!」

黄瀬と桃井が声を揃えては頬を赤く染める。
彼らの反応を見ていた日向と伊月は嫌な予感に冷や汗を流していく。そんな二人の様子に気付いた赤司はふうんと含み笑いを浮かべた。

「先輩方はこのように可憐な相田さんを僕らから遠ざけようとしていたのですね?」
「な、なんのことだか……」
「ずるーい。リコちん独り占めしようとしてたんだー?」
「俺、リコさんお持ち帰りしたいっス!」
「それはだめ!リコさんは私が持ち帰るの!」
「お前たち落ち着くのだよ。……しまった、人参を忘れた」
「いやいや緑間っちが一番落ち着いた方がいいっスよ」
「要はゲームに参加すりゃいいんだろ?内容は……なんだっけ。うさぎを捕獲すりゃいいんだよな?」

――ルール変わってんじゃねえか!!
日向と伊月は同時にツッコミを入れたが、口にできなかったのはカラフルな集団……もとい、キセキの世代の目が。彼らの目が。

ただの野獣と化していたのを確と見てしまったからだろう。

「そうと決まれば早いもん順っつーことで」
「ああっ、青峰っちずるいっス!!」
「ラッキーアイテムは持っている。負けるはずがない」
「あっれーミドリンが珍しく本気モードだあ」
「俺、ここで何か食べてってからでもいいー?」
「敵に食べ物を貰うんじゃない、敦」

ええー、と駄々を捏ねる紫原を外へ促しながら、不思議な瞳を持つ少年は二人の執事に目を向け、にこりと微笑んでみせた。
その目は明らかに、僕らの邪魔をしないでください。僕の言うことは?――――と物語っている。
うっと狼狽えた日向だったが、ここで彼らを野放しにするわけにはいかない。
なぜなら、仮に彼らがリコを見つけたとして、おそらく、いや確実に彼らはリコを拉致するであろうから。

「おいっ、お前らちょっ、」
「――あっ、ちょうどよかった!日向くん!!」
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