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□うさぎさんをつかまえて
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一瞬、耳を疑った。
嘘だろ、信じられない。
カラフルな集団も足を止め、声の方へ目を向ける。
唖然とした日向が立ち尽くすその後ろで、伊月があーあと言いたげなため息を漏らした。

「今日の部活のことなんだけど……って、あれ?」

今し方、この場にやってきたリコ。
目の前に広がるカラフルな集団に気が付くと、不思議そうにこてんと首を傾げる。ゆらりと真っ白なうさ耳が揺れた。
そんな光景、可愛くないわけがない。

「おおおおいいい!!!なんでカントク自らここに来るんだよおおお!!!」
「はっはあ!?なによ、自分のクラスに来ちゃダメなわけ!?」
「……リコさん」

ふと、カラフルな集団の誰かから声が上がった。その声に、リコは我に返る。
リコはその集団に視線を移し、笑顔を浮かべながら腰に手をあてた。

「よくもまあお揃いで。あんたたち、本当仲いいわね……」
「リコさああんっ!!!」
「きゃあっ!?」

我先に、とリコに駆け寄るキセキの世代たち。
その勢いと迫力に、リコは逃げるタイミングを失ってしまった。

「リコさんリコさん!その恰好めちゃくちゃ可愛いっス!!」
「あ、ありがと……」
「一緒に写真撮りましょうよ〜、リコさん!」
「ちょっ、桃井!そんなに強く引っ張らないで……」
「相田さん、すみません。うさぎに必須な人参を忘れてしまいまして」
「は、いらないけど!?」
「リコちーん、お腹空いたー」
「はあ!?」

なんなのよ急に、とリコが声を荒げようとした瞬間、ぐいっと力強く腕を引っ張られた。
輪の中からリコが飛び出す。

「ぎゃーぎゃーうるせえな」

リコの腕を掴んだのは、青峰だった。
青峰は口角を上げながら、リコの頬へ顔を近付ける。

「そーいう恰好も似合ってんな。食っていい?」
「はあ!?え、ちょ、え、待っ」

リコの制止も空しく、日向と伊月の非難の声も届かず。
青峰の鋭く尖った八重歯が、リコの首筋に突き立てられる、その瞬間だった。

「――カントクから離れてください、変態」
「ぐへえ!?」

突如として現れた黒子が、自慢のイグナイトを青峰の腹に命中させる。

「く、黒子くん!?」
「大丈夫ですか?カントク」
「よくやった黒子!!」
「今日は一段と可愛いですね。僕と一緒にお茶でも行きませんか?」
「畜生、お前もキセキ同様かっ!!」

日向の問いかけに気付かぬ振りをする黒子はしっかりとリコの手を握っている。

「黒子っち!!」
「きゃーテツくーん!!」

――なんなの、このカオス。
リコは顔を引き攣らせながら、この状況からどう抜け出すか思案を巡らせた。

「ってーな!!何すんだよ、テツ!!」
「それはこっちの台詞です。カントクに何しようとしたんですか?」
「おめーも何ちゃっかりリコの手ぇ握ってんだよ!!」
「これは出来心です」
「出来っ……!?」
「――――大輝、テツヤ」

リコの元へ歩み寄る一つの影と、場を一瞬にして鎮めさせる声。
名を呼ばれた青峰はげっと顔を歪め、黒子は表情を変えないながらも嫌な気配に冷や汗を流す。
赤司はにっこりと満面な笑みを浮かべながら二人を見やった。

「少し、やりすぎだと思わないかい?」
「「……はい」」

二人に目を向けていた赤司は、そのまま呆然としているリコに目を向けた。

「相田さん、これから京都へ行きませんか?」
「おめーも何言ってんだあああ!!!」

すぐさま日向の怒り狂った叫び声が飛ぶ。
またしても騒がしくなる自分の周りに、リコはただただ立ち尽くすばかりだ。
そんな彼女の様子に気付いた伊月は、リコと目が合うと彼女を促すような仕草をする。
逃げろ、と言っているんだとすぐに理解した。確かに、彼らと一緒にいるのは危険だと本能が訴えかけている。これは逃げるしかない。
日向が彼らを引きつけている間に、タイミングを見計らい――――リコは駆け出した。

「あっ!!」
「リコさん!?」
「逃がすかっ!!」
「お前ら待てっ!!」

振り向いてはいけない気がした。ただ、慌ただしく聞こえてくる足音の数は半端ではない。

――なんでどうしてこんなことに……!!

リコはひたすらに廊下を駆け抜けることに専念するのだった。
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