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□レンアイ感情2
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6.宮リコ
「……え?」
辺りに散乱した部員たちのスポーツドリンクの容器。
身を屈めて、顔を上げたまま、彼女の動きは停止した。
「早く拾わなくていいの?」
リコの視線の先にいる宮地が笑う。
何食わぬ顔で、ただ笑っていた。
「今……何したんですか?」
段差に躓いて両の腕に抱えていた容器を辺りにばら撒いてしまったのは今から数十分前。
慌てて拾い集めていれば、そこへ宮地が現れたのがそれから数分後。
――そして。
相田、と名前を呼ばれて顔を上げた直後に宮地の顔が近づいてきて、互いの唇が触れたのはそれから数秒後の出来事。
「何、したんですか?」
途切れ途切れにリコは問いかける。
そんな彼女の反応に、宮地はまたしても楽しそうに笑うのだった。
「――――さあ?」
7.諏リコ
「……さっき、秀徳の宮地と何してたの?」
えっ、とリコは背後から聞こえてきた声に肩を跳ねあがらせる。
「諏佐、さん?」
肩からタオルを下げた諏佐が、部屋の入り口に立っていた。
皆が練習中に合宿所の掃除をしていたリコは、突然の来訪者に驚きを隠せない。
「れ、練習はどうしたんですか?」
「質問。答えて」
諏佐の様子がいつもと違うことに気が付く。普段はもっと温和な雰囲気を漂わせているはずなのに、今はひどく冷たい雰囲気を醸し出しているのだ。
「ドリンクの容器を落としちゃって……通りかかった宮地さんが拾うのを手伝ってくれたんです」
「ふーん。俺にはキスしてるように見えたけど?」
――キス。
至近距離の宮地の顔が脳裏を過る。瞬間、顔に熱が帯びていくのを感じた。
リコは悟られないように慌てて諏佐から顔を逸らす。
「や、やだ諏佐さんってば。あれは事故、ですから。ちょっと唇が触れただけで……」
「……そうだな。少し触れただけじゃ、わからないよな」
いつの間にか、諏佐の声がすぐ傍で聞こえていることに気が付いた。振り向こうとする前に腕を引かれる。
顔を後ろへ向けたとき、すぐさま口が塞がれた。
「っ!?」
リコの体が壁に押し付けられる。必死に動いて、彼の腕から逃げようとした。
顔を逸らし、ようやく彼の唇から離れることができた。
「やっ……!諏佐さ、やめてっ……!」
しかし、力では到底敵うはずもなく、再び諏佐によって口を塞がれてしまう。
「んっ、ふっ……!んんっ……!」
角度を変えられ、何度も何度も深い口づけを交わした。
彼の舌が彼女の口内を十分に堪能した後、名残惜しそうに唇を離しながら、彼は彼女の耳元でそっと囁く。
「……相田さん、」
――キスはこうやるんだよ。
8.花リコ
「やあっ……もう、やめ……ああっ」
リコのしなやかなくびれに手を添え、嫌がる彼女の体を何度も上下に動かした。
そのたびに、二人の結合部分からはぐちょぐちょと卑猥な音が鳴り響く。
「……ふはっ、アンタの体、堪んないね」
花宮の自身がリコの中で熱く締めつけられる。
「アンタ、名器なんじゃねーの?」
ほらよ、とリコの体を深く沈めると、彼女は一際高い声を上げた。
力なく彼の胸元に寄りかかり、額をつけてしまう。
おい、と彼女の肩に触れようとしたとき、彼女の瞳から何かが落ちていくのが見えた。
涙だった。リコは涙を流しながら声を上げる。
「てっ……ぺぇ……!たす、けっ……てっ、てっぺい……!」
チッ、と舌打ちを鳴らす。
花宮の頬には、ここへリコを連れ込んだ際、抵抗する彼女に引っ掻かれた傷跡ができていた。初めはそのぐらいの威勢があったというのに、今はどうだろうか。
花宮はリコの髪を掴むと、ぐいっと上へ持ち上げた。
目を赤く腫らしたリコと目が合う。
頬を伝う彼女の涙を指ですくい、見せつけるように舐めてみせる。
「口にする名前、違うだろ。俺の名前呼んで、さっさと喘げよ。クソ女」
9.紫リコ氷
「敦……駄目じゃないか」
「なにがー?」
「どこから連れてきたんだい?」
「わかんない。たまたま会ったから捕まえてきたー」
「捕まえてきたって、彼女の了承は得たのかい?」
「えー。だってリコちん、いつも誠凛の人たちに守られてて捕まえられないんだもんー」
「答えになってないよ、敦……」
氷室はため息をつくと、お菓子を頬張りながら腰を下ろしている紫原に目を向けた。
そして、そのまま視線を横に動かす。
「タイガの監督さん、だよね。大丈夫?」
少女の体が微かに震える。
「独占欲強いんだ、敦は。だからもう少し、彼に構ってやってくれないか?」
氷室は彼女に手を伸ばした。
手を拘束され、目隠しをされて横たわっている彼女に、優しく触れる。
「――――俺は敦の次でいいから」
そう言って、にこやかに微笑む彼の本当の正体に、視界を失った彼女は気付くはずもなく。
10.赤リコ
確かめるように、肌をなぞる。
髪に触れ、時折口づけを落とす。
顔の輪郭を指先でなぞって、そのまま首へ、腕へ、胸へと移動させていけば、彼女は堪えきれなくなったかのように身をよじらせた。
「くすぐったいわ、赤司くん」
「……ああ、すまない。君の体に夢中になっていた」
素直にそう口にすれば、彼女は顔を赤くする。
彼は両手で彼女の顔を包み込むと、伏し目がちだった彼女の顔を上へ向かせた。
「久しぶりの再会だ。今のうちに君に触れていないと、次会うときまでに君を忘れてしまいそうになる」
そう言って、彼女に口づけを落とそうとすれば、彼女の瞳が不安げに揺らめいた。彼の動きが止まる。
「……なかなか会えないからって、私のこと嫌いになったりしない?」
――飽きたりしない?
「……愚問だな」
彼は不敵に笑うと、彼女の頬へ唇を寄せた。
「嫌いになるわけがない。飽きることもない。ただ、」
「ただ?」
間を置いてから、彼は口を開く。
「寂しくは、なるだろうな」
彼女は思わず目を丸くしてしまった。
初めて見た。機嫌を損ねてしまった子供のような、そんな彼の表情。
「……そんなに見るな。見世物ではない」
彼は彼女を抱きしめ、彼女の首元に顔を埋めた。
彼に触れられる首元が熱くなっていく。
それが自分の熱なのか、彼の熱なのかはわからないけれど。
彼の反応に、彼女はとてつもない愛しさを感じた。
「でも、相田さんがそんなことを気にする必要はない」
「えっ?」
顔を上げた彼は、素早く彼女の耳元へ唇を寄せ、何かを囁く。
そして、互いの唇を重ね合わせた。
彼女は目を閉じる。
彼の温もりを確かめるように、そっと背中に腕を回した。
抱きしめ合えば、互いの想いなんてすぐに伝わってしまう。
それでいいのだ、と思う。
願わくば、すべて伝わってしまえばいいのに。
耳元で囁かれた彼の言葉が頭を過り、彼女は微笑む。
「……すぐ会いに来てね」
――君が寂しいと思う前に、僕は君に会いに来るよ。
end