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□揺れるリボンに恋をして
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「……」
「……」
「……」
沈黙。
そして、沈黙。
「……なんかしゃべれば?」
リコは頬杖をついて、もう片方の手でジュースの容器を持ちながら、自分の目の前で向かい合って座っている木吉と花宮に目を向けた。
木吉と花宮と、そしてリコ。
因縁のある三人がなぜマジバという場所で、しかも同じ席に座っているかという、疑問溢れるまさにこの現状。
「……カオスねー」
ため息とともに吐き出されたリコの言葉は、思っていた以上に他人事だと花宮は感じた。
「別に俺はお前らと相席なんかしたくてしてるわけじゃねーよ」
「だったら鉄平の誘いになんか乗らなきゃよかったのよ」
リコの言葉に、花宮は舌打ちを一つして顔を逸らす。何か言い返されるかと思っていたリコは彼の反応に目をぱちくりさせるも、一向に話が弾まないこの場の空気にまたしてもため息を一つ。
(……鉄平の馬鹿)
そもそも、このような状況を生み出したのは紛れもなく木吉鉄平のせいともいえよう。
部活帰りにマジバへ行こうと約束をしていた木吉とリコは、その途中で偶然にも花宮に遭遇した。
リコはこの男が嫌いである。自分の大切な部員を傷つけたこの男が、実に気に食わなかった。
自分のバスケ生命を脅かした相手にも関わらず、何食わぬ顔で花宮に挨拶をしだす木吉にありえないと思いつつ、早く行こうと催促するように彼の腕を引っ張る。
そのまますんなりリコとともに歩き出してくれればよかったものの、木吉鉄平という男はリコの予想の斜め上をいく男だったのだ。
「――そうだ!花宮も一緒にどうだ!?」
(……だいたい、なんであそこでこいつなんか誘うのよ)
二人から顔を逸らしたまま、リコは先ほどまでの光景を目に浮かべる。
花宮は決していい奴、ではないのだ。それは木吉が一番わかっているはずなのに。
(……まあ、そういうとこが鉄平のいいとこなんだろうけど)
そう思いながら木吉に横目で見てみれば、彼は何も会話がないことに気まずさを覚えているようではなく、ただ手元のチラシに食いついているだけだったのだと気付く。
「なあなあ!この新作のハンバーガー、すっごく美味しそうだぞ!!」
「「……ああ、そう」」
空気を読めていない彼の発言に、リコと花宮の呆れた声が重なった。思わず顔を見合わせ、露骨に嫌そうな顔をしながら互いに顔を逸らす。
「俺、このハンバーガー買ってくる。リコは何か食べるか?」
「……アップルパイ」
「花宮は?」
「……いらん」
「そうかそうか!じゃあちょっと買ってくるから席外すなー」
木吉がチラシを手にしてとても楽しそうに席を離れていくのを目で追いながら、リコは本日何度目かのため息をつこうとした矢先に花宮が大きなため息をついた。
非常に苛ついているのがよくわかる。
リコは顎を手の平に乗せながら彼を見やった。
「別についてこなくてもよかったのよ」
「はあ?」
「用事とか、あったでしょうに」
「ふはっ、別に用事なんてねーよ」
「ふうん、友達いないんだ?」
「ちげーよ!!」
ふざけんな、とぶつぶつ口にする花宮から視線を逸らし、リコはどこか遠くを見つめる。
「……私はあんたがしてきたことを許すつもりはないし、あんたと仲良くするつもりもないわよ」
リコの淡々とした言葉を聞きながら、花宮はイスの背もたれに深く寄りかかってリコを眺めた。
「俺も、アンタとこれから関わり合うつもりなんてねーよ」
言いながら、ずきりと刺されたような胸の痛みに舌打ちをする。
でも、とリコが口を開き、花宮は顔を上げた。
「鉄平は、私と違うから」
顔を横に向けたまま、目だけを動かして花宮を見る。
「あんたがよければ、仲良くしてやって」
「……ふはっ、知るかよそんなもん」
ジュースの容器に手を伸ばし、ストローに強く噛みついた。
「……鉄平、ばかだもん」
そう口にする彼女の瞳には、木吉という男はどう映っているのだろうか。
自分は、花宮という男はどう映っているのだろうか。
それはきっと、木吉と比べたら雲泥の差なんだろうけど。
「俺がお前らについてきた理由、教えてやろうか?」