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□ハイビスカスを添える
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辺りに響き渡るホイッスルの音。
突然のその音に驚いたのは、今吉の目の前にいるリコだけではなかった。
体育館から聞こえていたバッシュの音が止まり、なんだなんだとざわめく声が聞こえてくる。リコの背中に冷や汗が伝った。今、ここに誰かが来たらまずいことになる。
リコが背にしている体育館のドアの向こう側から人の気配が徐々に近付いてくるのがわかった。
もうだめだ、とギュッと目を瞑ったのと同時に、ぐいっと腕を引かれた。

「っ!?」

自分の身に何が起きたのかはわからなかったが、腕を引く人物が今吉であることは理解できた。
体育館からバスケ部員が出てくる、ほんの数秒前。リコは今吉に引っ張られ、近くにあった倉庫らしき小さな建物に押し込まれた。
それから今吉が扉を閉め、彼の腕の中に収められながら地面に倒れ込む、という一連の流れはあっという間の出来事だった。

「なんだ、誰もいねーじゃん」
「すごい音したけど……」
「なんだったんだ?さっきの笛みたいな音」

外から聞こえてくる、バスケ部員の会話。
リコは薄暗い倉庫の中で何度か目を瞬かせてから、ようやく自分の状況を把握した。
髪に触れる今吉の息遣い。腰に回る彼の腕。そして、彼の足の間に座る自分。それはまるで、彼に後ろから抱きしめられているかのような、そんな体勢だった。

「……ふう、危なかったわあ」
「……誰のせいですか誰の」

わざとらしい彼の口調に苛つきながらも、速さを増していく鼓動に焦りを覚え始める。
こんなにも密着しているのだ。彼が気付かない筈がない。気付かれたのなら彼のことだ、盛大にからかってくるだろう。それは何としても避けたい。
リコは今吉という人間が苦手だった。人の心の中を覗き込んでは嘲笑うという、そんなイメージを持ってしまっているからだろうか。

「あ、あの……」
「ん?」
「た、助けてくれてありがとうございました。もう大丈夫なので離して、」
「なんや監督さん、めっちゃ心臓ばくばくしとるで?」

そう言って、今吉の大きな手の平がリコの胸に触れた。

「っ!?」
「自分、緊張でもしとるん?」

おそらく、リコの心臓の音を確認しているだけなのだろうが、リコにとってはそれだけでは済まされなかった。いくら周りから小さいと言われていようが、それなりの膨らみもあるわけで、女としての恥じらいがないわけでもないのだ。
リコは視線を後ろに向けて彼を見やった。目と目が合った瞬間、彼は素早い動きで彼女の耳元へ唇を寄せる。

「なあ、緊張してるん?」

囁かれた言葉とともに吐息が耳を掠めた。今吉の低い声と吐息にぞくりと肌が粟立つ。

「監督さん、この眼鏡伊達なん?」

耳元に顔を寄せたまま、手が胸に触れたまま、何食わぬ顔をして空いた手でリコが掛けている眼鏡に触れる。リコは彼から視線を逸らし、何も言葉を発さず、ただ首を縦に振った。
ふうん、とつぶやいた今吉は何を思ったのか、リコから眼鏡を取り上げた。

「ちょっ、今吉さんっ」
「眼鏡、邪魔やなあって思うて」
「邪魔って……」

地面に眼鏡を置いた今吉の手が、そっぽ向いてしまったリコの頬に触れる。

「眼鏡の監督さんも好きやけど、普段の監督さんの方が好みやねん」
「そっ、そんなの知りませんよ……!」

顔が見れないものの、黒髪から覗かせる彼女の耳が真っ赤に染まっていることに気が付くと、今吉は満足げに微笑んだ。

「も、もうからかうのはいい加減に……ひゃあっ!?」

突然、リコの口から裏返ったような声が上がった。

「ちょ、やっ、今吉さ、ん……!」

リコの胸に触れていただけだった今吉の手が、優しい手つきで愛撫し始めたのだ。制服の上から感じる彼の手の動きに、リコは我慢できずに声を出してしまう。すると、今吉は笑みを浮かべながら彼女の耳元へまたしても唇を寄せた。

「声、外に聞こえてしまうで?」

口ではそんなことを言うのに、リコの耳元にふっと息を吹きかけて彼女の反応を楽しんでいる。最悪、最低、と思いながらも何も言い返すことができないのは、口を開いたら自分の声とは思えないような声が出てしまうからだった。
唇を噛み締めて堪えていれば、服の上からだっら今吉の手が、制服の中へするりと入り込んできた。

「ひゃっ……!」
「柔らかくて気持ちいいで、監督さん」

下着の中にまで入り込んできた彼の指先が、主張し始めた突起を弄る。ぎゅっと摘まれた瞬間に感じた痛みは、体に電流が走ったかのような刺激に変わっていく。

「あっ、あっ……!」

ついに耐え切れなくなって零れだした声。その喘ぎ声は他の誰でもない今吉を喜ばせる。
かろうじて繋がられている理性を手放してしまう前に、リコは今吉の腕から逃げようと、胸を触り続けている彼の腕を掴んだ。しかし、引き剥がそうとしても手に力が入らない。
リコの無駄な抵抗を、今吉は楽しそうに眺めては笑みを浮かべる。

「可愛いなあ、監督さん。そんな可愛い顔、誠凛の奴らに毎日見せとんの?」
「や、だ……!も、やあっ、あっ」

今吉はリコの胸元をはだかせたまま、先ほどから太腿を擦り合わせているのを隠しているスカートを捲り上げた。

「――きゃあっ!?」
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