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□息を殺して、六秒間
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君のその表情が崩れる瞬間を想像したら、恐ろしいくらいに鳥肌が立った。
男の集団の中心にいる彼女を横目で見ては、目を逸らす。
強気な彼女が自分の手の中で乱れる姿。思わず口元が緩んだ。





(……あちー)

まだ濡れている髪をタオルでガサツに拭きながら、俺は一人廊下を歩く。
風呂上りで体がさっぱりした上に、開け放した窓から吹き込んでくる心地の良い風が火照った体を冷ましてくれる。
都会では決して味わえない、夏の涼しさ。同じ夏なのに、都会と山の中ではこうも違ってくるのかと毎年驚いてしまう。
秀徳は毎年恒例の夏の合宿として、いつもの宿に来ていた。それが運がいいのか悪いのか、誠凛の奴らとの合宿と重なるというまさかの事態。
緑間は嫌がっていたが、俺は別にどうでもよかった。バスケの練習ができれば、どうだって。
だから、中谷監督と誠凛の監督の二人の会話が見事に盛り上がって、急遽合同練習とか練習試合とかをすることになったって、俺としてはどうでもいいのだ。
それなのに。

(……あ)

ふいに止めてしまった足。ばさり、とタオルを振り下ろす。
俺の部屋はここをまっすぐ行ったところにあるのだが、目を向けてしまったのは右側の通路だった。
その先にあるのは、誠凛の監督の部屋。その情報は高尾から聞いた。そういや、なんであいつが知ってたんだ?まあ、なんでもいいけど。
ぽたり、と髪から雫が滴り落ちる。
タオルを首に掛けながら、その足が向かったのは自分の部屋ではなかった。
晩飯の後に一人走り込みをして、シャワーを浴びにいったその帰り。ハードな練習だったからか、おそらくみんなは寝てしまったのだろう。その証拠に秀徳と誠凛の部屋一帯がやけに静寂に包まれていた。
少し歩いて、ぴたりと足を止める。
閉めきっている部屋。躊躇いもなく叩いた。周りに気付かれないように、控えめに。
中から彼女が出てくるのは、そう時間はかからなかった。
ドアの隙間から顔を覗かせた彼女は、今何時だと思ってんのよ、と不機嫌極まりない表情をしていた。誠凛の奴らが来たと思ったのだろう。俺の姿を見るなりその表情は一変する。

「え、あ、えっ?」

面食らった表情。
それが、疑問へと変わった瞬間。

「み、宮、」

彼女が俺の名前を口にする前に。
ドアの隙間に手をかけて無理矢理ドアを開けてしまう。そして、部屋の中に彼女を押しやった。それに続いてすぐさま自分も部屋の中へと体を滑り込ませてしまえば、主導権は俺のもの。
後ろ手でドアを閉めて彼女と向かい合うと、よろめいた彼女とちょうど目が合った。

「宮地さんっ、」

大きな声を出される前に、彼女の体をその場に押し倒す。寝ようとしていたのだろう、敷いてあった布団の上に彼女の体が沈んだ。音を立てないように手を添えてみたが、衝撃は避けることができなかったらしい。
頭を強く打ったようで、痛みに彼女の顔が歪む。

「っ……!」

声にならない呻き声。
それすらも逃さないように、彼女の口を手で覆った。

「ふっ、んんっ……!?」
「声出したら轢く」

しかし、脅しても彼女は大人しくならない。威勢のいい女だ、と思った。
足をばたつかせ、腕を振り回す。どん、と彼女の拳が俺の胸元に当たったところで彼女の身動きが止まった。
はっとしたように息を呑んで、怖々と俺を見つめる。

「……ざけんなよ?」

よく怒りの沸点が低いのだの、すぐキレるだの言われてきたが、ああそうかもしれない、と今更ながら心のどこかでぼんやりと思った。
布団に押しつけた彼女の体が小刻みに震えだす。殺伐さを醸し出す俺の空気を感じとってくれたようだ。
笑みが零れた。
弱弱しく震える彼女の小さな体に、ぞくぞくと何かが背中を駆け抜けていく。
それは、興奮と狂喜。

「声立てんな。アンタも嫌だろ?」

恐怖に顔を怯えさせる彼女と、合宿中の凛とした彼女の姿が重なった。
ああ、これだ。
俺が求めていたのは、この顔だ。
目尻に溜まった涙を舌ですくいとって、にやりと笑う。


「――他の誰かに見られながら犯されるのは」
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