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□息を殺して、六秒間
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そう言いながら、彼女の足を再び大きく開かせると、達した余韻でヒクヒクといやらしくも中へ導かせようとしている秘部がそこにあった。
その場所へ自身を押しつけようとしたら、急に彼女の手が伸びてきて、俺の動きを止める。

「待っ、これ以上はっ……」
「なに?アンタって自分だけ気持ちよくなれれば無理矢理されてもそれでいいわけ?虫がいい奴。つーか、今ので男は満たされるとでも思ってんの?」

――俺、アンタに純粋な愛なんて求めてねーから。

そう付け足して、相手の有無を待たずに一気に奥へと自身を突き立てた。

「ひゃああああっ!?」

突然の鋭い痛みと圧迫感に声を上げる彼女。声でけーよ、と舌打ちをしながら、逃げようとする彼女の腰を掴み、ガツガツと何度も打ちつけた。
愛液で滑りもいいし、処女のキツイ膣の中も、締まりもいい。

「声、ぜってえ出すなよ」

なんて無茶な要望。初めての奴が声を出さずにいるのは無理だろう。わかっているのに、そう言ってしまうのだ。
距離を縮めて、彼女に近づく。

「やだあ……痛い、痛いっ……!」

耳のすぐ傍で彼女が泣き叫ぶ。
彼女の両腕を押さえつけて、腰を振る。
声が外に漏れないように、彼女の顔を胸元で押しつけた。
毛布に覆いかぶさったそこは、互いの荒い息が交差する。

「ふっ、ふうっ……!」
「あ、やべっ……出そう」

ぎゅっと締めつけられた瞬間に快感が走った。思わず腰を浮かせると、頬に涙を伝わらせながら彼女が顔を上げた。

「お願いっ……!中にっ、出さないでっ……おねがいっ……!」

懇願する彼女。
腰を振り続けてる俺の額から汗が伝って、彼女の頬に落ちた。
その汗は彼女の涙と一緒になってシーツに染み込むのだろう。
ぐっ、と拳に力をこめた。
痛みなのか快楽からなのか、声を漏らし続ける彼女に我慢ができなくなる。
それなのに、やけに耳に響くのは彼女の涙声だった。

「くっ、そ……!」

達する直前、一気に自身を引き抜く。
その瞬間に、自身の先から白濁液が飛び散った。ぴしゃっと音を立てて彼女の腹の上を汚す。
最後の一滴まで注ぎだすように手で扱いて欲望を吐き出した。
荒い呼吸をしながら彼女を見下ろす。
自分同様に肩で息をする彼女の腹は、俺の白濁液で彩られている。
彼女をこの手で犯すことができた。
溢れ返る歓喜。
そう、俺はかつてないほどの悦びを味わったのだ。





「……カントク、なんか顔色悪くね?」

ふいに聞こえてきた声に顔を上げる。視線を向けたその先に、誠凛の主将に顔を覗き込まれているアイツの姿があった。

「大丈夫。昨日、あんま寝れなくて」

笑って誤魔化しているその表情は、とてつもなく青白い。さすがにその様子じゃ周りも黙っていないだろう。

「誠凛の監督さん、今日具合悪そうっすねー」

後ろから声がかかる。見れば、高尾が頭の後ろで手を組んで立っていた。

「大丈夫かなー」
「さあ?生理なんじゃねーの?」
「うーわー宮地先輩ってそんなこと言っちゃう人だったんですか!?」
「生理とは何なのだよ?」
「えっ!?真ちゃんええっ!!?」

後ろで騒ぎ出す高尾と緑間に、一人小さな声でばーかと呟いた。
それから手にしていたボールを床に何度か跳ねらせて、ゴールに向かってシュートを放つ。
ボールは弧を描いて綺麗にゴールを潜り抜けた。よし、とガッツポーズをしてみたものの、心の中はモヤモヤしたまま。
ばーか、ともう一度呟く。それは他の誰でもない、自分に向けた言葉だった。






わりい、少し顔洗ってくるわ、と理由をつけてその場を離れたのは、アイツが練習場から姿を消した、何分後かである。
アイツはその場を離れるまで誠凛の奴らに心配の眼差しを向けられていた。それだけではない。秀徳の奴らも口々に彼女を心配していた。
何をそんなに心配してんのやら、と俺はただため息をつくばかり。
気怠い暑さに額を拭って水道のある場所へ向かう。
水道が見えてきたところで足が止まった。どうやら先客がいるらしい。
水道の淵に手をついて、頭を項垂れさせているのは紛れもなく彼女だった。

「何してんの?」

声をかければ、驚くほどに彼女の肩が跳ね上がる。勢いよく俺を見やった彼女はすぐに背を向けて足早に歩き出した。
別に追わなくてもよかったのに、少なくとも彼女はそう望んでいたはずだ。

「おい、待てよ」

ふらふらな彼女の足取りに追いつけないわけがない。彼女の腕を掴んで、自分の方へ振り向かせた。
そして、思わず目を見開く。

「……何泣いてんだよ」
「うっ……さい……!誰のせいっ、よ……!!」

俺の顔を見た瞬間、彼女の瞳からは大粒の涙が零れ始めた。
顔を真っ赤にして、周りの目など気にせず大泣きする子供のようだった。

「アンタなんかっ、嫌い……!嫌いですっ……!!」
「あっそ」

掴んだ腕を軽く引っ張ると、彼女の体が揺れた。くしゃり、と彼女の柔い髪の毛に触れれば、彼女は掴まれていない手で涙を拭う。
なのに、とかすれた声で話を続ける彼女に、俺は顔を上げた。

「ひどい、ことっ……されたのにっ……急に、あんなことされたのに、乱暴、してくるっ……けどっ、私の頭を撫でてくれる手はすごく優しくてっ……!!」

告げられた言葉に気をとられ、彼女を掴んでいた手の力が緩んでしまった。彼女は腕を振って俺の手を振りほどく。

「嫌いです…!あなたなんて、嫌いっ……!!ひどいことされたのに、こんなに胸が締めつけられる自分は、もっと嫌いよっ……!!」

伸ばした俺の手は、普段の彼女とはまるで別人の、そんな弱い彼女に向けられた。
肩を掴んで、抱き寄せる。

「――声、立てるなよ?」

その言葉に、彼女の動きが止まった。
彼女の両頬に手を添えて、まっすぐ見つめる。
震える彼女の眼差しに映った俺は、一体彼女にはどんな風に見えて、どんな風に感じたのだろう。

「相田、」

相田の背後に手を回して、彼女の唇に自分の唇を重ね合わせた。
初めて名前を呼んで、初めて口づけを交わす、その瞬間。


俺はようやく、自分が求めていた彼女を手に入れたことを理解した。

それでも、俺は断言する。これは恋ではない。


じゃあこの感情は何かと聞かれたら、答えることはできないけれど。





息を殺して、六秒間





(六秒後に顔を上げたその先にいる俺と彼女の結末なんて、きっと誰にもわからない)





end
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